はじめに
交通事故に遭った後、精神的にも肉体的にも疲弊している被害者の方のもとに、加害者側の保険会社から電話がかかってくることがあります。
「お怪我の具合はいかがでしょうか?」
「今後の治療費や補償の手続きについてご説明させてください」
一見、親切で丁寧な口調の担当者。しかし、ここで気を緩めてはいけません。相手は、毎日数多くの交通事故案件を処理している「示談交渉のプロ」です。彼らの業務は、契約者(加害者)を守ること、そして会社として支払う保険金を適正な範囲(=可能な限り低い金額)に抑えることです。
被害者の方が何気なく発した一言が、言質(げんち)を取られ、後の示談交渉で「あの時、こう言いましたよね?」と不利に使われるケースは後を絶ちません。一度記録された発言を後から覆すことは困難です。
この記事では、相手方保険会社から連絡が来た際に、被害者が「やってはいけないNG対応」と、自分の権利を守るための「正しい話し方・対応法」について、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説します。
保険会社対応に関するQ&A
まずは、保険会社とのやり取りについて、当事務所によく寄せられる疑問にQ&A形式でお答えします。
Q1:保険会社の担当者が威圧的で、電話に出るのが怖いです。無視してもいいですか?
無視し続けるのは得策ではありませんが、無理に対応する必要もありません。
連絡を無視し続けると、治療費の支払いが止まったり、一方的に示談手続きを進められたりするリスクがあります。しかし、精神的に辛い場合は、無理に電話に出る必要はありません。
「体調が悪いので、要件は書面(手紙)で送ってください」と伝えたり、「家族に代わってもらう」、あるいは「弁護士を代理人に立てて、全ての連絡窓口を弁護士にする」という方法が有効です。弁護士に依頼すれば、ご本人が直接話す必要はなくなります。
Q2:「治療費は今月で打ち切りになります」と言われました。従わなければなりませんか?
いいえ、治療を終了するかどうかを決めるのは「医師」であり、保険会社ではありません。
保険会社は、統計的な目安(むちうちなら3ヶ月など)に基づいて治療費の打ち切り(一括対応の終了)を打診してくることがあります。しかし、まだ痛みがあり、主治医が「治療の継続が必要」と判断しているのであれば、治療を止める必要はありません。医師の意見を根拠に期間延長を交渉するか、健康保険に切り替えて通院を継続し、後で費用を請求する方法があります。安易に「わかりました」と承諾しないようにしましょう。
解説:保険会社へのNG対応と「言ってはいけない」言葉
保険会社との電話で警戒すべきなのは、不用意な発言による「誘導」に乗ってしまうことです。ここでは、具体的なNG例を解説します。
1. 自身の過失を認めるような発言をする
事故直後、日本人の気質として、つい「私もうっかりしていました」「すみません」と言ってしまうことがあります。
NGワード
- 「私もスピードを出していたかもしれません」
- 「ぼーっとしていて気づきませんでした」
- 「私が悪かった部分もあります」
リスク
これらの発言が記録されると、本来なら過失ゼロ(0対100)の事故であっても、「被害者にも前方不注視があった」として、過失割合を1割〜2割修正される(賠償金が減らされる)原因になりかねません。過失割合は事故状況の客観的な証拠に基づいて決めるべきものであり、電話口での印象で決めるべきものではありません。
2. 怪我の程度を軽く伝える(安請け合い)
担当者からの「お体の具合はいかがですか?」という問いかけに対し、社交辞令で答えるのは危険です。
NGワード
- 「もうだいぶ良くなりました」
- 「大したことないので大丈夫です」
- 「あと1週間くらいで治ると思います」
リスク
「もう治った=治療終了」とみなされ、治療費の打ち切りを早められたり、後遺障害が残った際に「あの時、治ったと言っていましたよね」と因果関係を否定されたりする材料に使われます。痛みがあるなら正直に「まだ痛みます」と伝えるべきですが、治る時期については予断を持って答えてはいけません。
3. その場で示談金額や条件に合意する
「今回の件は〇〇万円でいかがでしょうか?すぐに振り込めます」といった提案がなされることがあります。
NG対応
- 口頭で「わかりました」「それでいいです」と答える。
- 送られてきた免責証書(示談書)にすぐサインして返送する。
リスク
示談は口頭でも成立します。一度合意してしまうと、後から「やっぱり痛みが続いている」「金額が安すぎた」と気づいても、原則として撤回できません。保険会社が最初に提示する金額は、裁判基準(弁護士基準)よりも低い「任意保険基準」であることがほとんどです。即答は避けましょう。
4. 自分の保険会社や弁護士に相談せずに進める
「こちらですべて手続きしますので、そちらの保険会社には連絡しなくて大丈夫です」と言われることがありますが、これは鵜呑みにしてはいけません。自分の保険会社への報告義務がありますし、自分の保険に付帯している「弁護士費用特約」や「搭乗者傷害保険」などが使える可能性を見落とすことになります。
解説:被害者が取るべき「正しい話し方・対応法」
では、具体的にどのように話せばよいのでしょうか。基本姿勢は「余計なことは話さない」「判断は専門家に委ねる」ことです。
1. 必要最低限の事務的なやり取りに徹する
聞かれたことに対して、事実のみを淡々と答えます。感情的になったり、世間話をしたりする必要はありません。
伝えるべきこと
- 通院している病院名
- 氏名、生年月日
- (聞かれた場合)現在の正直な症状(「首が痛いです」「手が痺れます」等)
答え方
- 「はい」「いいえ」で簡潔に。
- 自分の意見や推測(「〜だと思います」)は挟まない。
2. 判断や決定に関する質問は「保留」する
過失割合、治療終了時期、示談金額など、判断を求められる質問に対しては、即答を避けるのが鉄則です。
使えるフレーズ(回答例)
- 怪我の状況について:
- 「痛みが続いているので、治療が必要かどうかは主治医の先生の判断に従います」
- 「いつ治るかは、私にはわかりません」
- 事故状況・過失について:
- 「警察の実況見分で話した通りです」
- 「事故の状況については記憶が混乱しているので、うかつなことは言えません」
- 条件提示に対して:
- 「弁護士(または家族)に相談してから回答します」
- 「一度持ち帰らせてください」
3. 「弁護士基準」を意識した対応
保険会社の担当者は「当社の基準ではこれが限界です」と言いますが、それはあくまで「保険会社の社内基準」に過ぎません。法的に正当な「裁判所基準(弁護士基準)」が存在することを知っておくだけで、相手のペースに飲まれずに済みます。
「提示額が妥当かどうか分からないので、専門家に見てもらいます」と伝えるだけで、相手は「無茶な交渉はできないな」と警戒し、対応が慎重になります。
弁護士に相談するメリット
保険会社との対応に少しでもストレスや不安を感じたら、弁護士への依頼を検討してください。単に交渉を有利にするだけでなく、被害者の方の生活を守るための大きなメリットがあります。
1. 精神的ストレスからの解放(窓口の一本化)
弁護士に依頼すると、受任通知が保険会社に送られ、それ以降、保険会社からの連絡はすべて弁護士宛てになります。
仕事中や家事の最中に電話がかかってくる恐怖、高圧的な担当者と話すストレスから完全に解放され、治療に専念できる環境が整います。
2. 「うっかり発言」による不利益の回避
プロである弁護士が交渉を行うため、不用意な発言で過失割合が悪化したり、言質を取られたりする心配がありません。事故直後から依頼することで、一貫した主張を行い、適正な証拠保全を行うことができます。
3. 賠償金(慰謝料・逸失利益)の大幅な増額
保険会社が提示する示談金は、低額な「任意保険基準」や「自賠責基準」で計算されています。弁護士は、過去の判例に基づいた最も高額な「弁護士基準(裁判基準)」で交渉します。これにより、慰謝料が2倍〜3倍、場合によってはそれ以上に増額するケースも珍しくありません。
4. 弁護士費用特約で実質負担ゼロ
ご自身やご家族の自動車保険に「弁護士費用特約」が付いていれば、原則300万円までの弁護士費用を保険会社が負担してくれます。相談料や着手金を含め、実質的な自己負担なしで最高水準のリーガルサポートを受けることができます。
まとめ
相手方の保険会社から電話が来たときは、以下のポイントを忘れないでください。
- 相手は示談交渉のプロであり、被害者の味方ではない。
- 「謝罪」「安請け合い」「即決」はNG。
- 判断に迷ったら「医師に聞く」「専門家に相談する」と答えて保留する。
- 会話はできるだけ記録(録音・メモ)する。
交通事故の被害回復において、保険会社との対等な交渉は非常に困難です。もし、相手の対応に疑問を感じたり、言いくるめられそうになったりした場合は、サインや合意をする前に、必ず弁護士にご相談ください。
弁護士法人長瀬総合法律事務所は、保険会社の対応にお困りの被害者の方をサポートし、適正な解決へと導くための無料相談を行っています。
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