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【コラム】傷害慰謝料の算定ルール

2023-05-01

はじめに

保険会社と示談交渉を行うにあたり、保険会社から言われる説明として、「自賠責基準を上回っているから問題ありません」、「保証として欠けるところはありません」という趣旨の説明を受けることがあります。

この保険会社の説明は妥当といえるのか、傷害慰謝料の算定基準について解説します。

傷害慰謝料算定の基準・3つのルール

傷害慰謝料の算定基準には、以下の3つのルールがあると言われています。

  1. 自賠責基準
  2. 任意保険基準(保険会社基準)
  3. 裁判基準(弁護士基準)

1つ目の自賠責基準は、強制加入保険の自賠責で定められています。

2つ目の任意保険基準は、加害者が加入している保険会社が自社で設定している算定基準によるものです。

3つ目の裁判基準は、「民事交通事故訴訟損害賠償額 算定基準」(いわゆる「赤本基準」)に基づくものです。

この3つの基準で算定していく場合の傷害慰謝料は、自賠責基準よりも任意保険基準の方が高額になり、任意保険基準よりも裁判基準の方が高額に算定されるという傾向で整理されています。

過失割合や後遺傷害等級の該当性が争いになる場合には、自賠責基準によった方が高額となるケースもありますが、原則として

自賠責基準 < 任意保険基準 < 裁判基準

に従って傷害慰謝料は高額になる傾向にあります。

自賠責における傷害慰謝料の算定方法

この3つの算定ルールがあるということを押さえていただいた上で、次に押えていただくポイントは、自賠責基準における傷害慰謝料の算定方法になります。

自賠責基準における傷害慰謝料の算定にあたって押えておくべきポイントは2つ挙げられます。

一つは、慰謝料は日額4300円(令和2年3月31日以前に起きた交通事故の場合には日額4200円)で計算するという点です。

もう一つは、治療期間と通院実日数の2倍のうち、いずれか短い方で計算をしていくという点になります。

具体例における慰謝料の算定(自賠責)

具体例を通じて自賠責の算定方法をみると、上記のようになります。

通院期間6ヶ月(180日間)、通院実日数60日という場合において、治療期間180日と通院実日数の2倍にあたる120日を比較し、短い方の120日を基準に算定することになります。

この場合、自賠責保険における傷害慰謝料は120日×4300円=51万6000円となります。

具体例における慰謝料の算定(裁判基準)

通院期間6ヶ月(180日) 通院実日数60日の場合
赤本基準Ⅱ:89万円
赤本基準Ⅰ:116万円

一方、裁判基準で傷害慰謝料を算定する場合には、上記のようになります。

自賠責基準、裁判基準(赤本別表Ⅰ、別表Ⅱ)を整理すると、以下のようになります。

算定基準慰謝料自賠責基準との差額
自賠責基準51万6000円
赤本Ⅱ基準89万円37万4000円
赤本Ⅰ基準116万円64万4000円

赤本別表Ⅰと赤本別表Ⅱ

なお、赤本では、傷害慰謝料の算定に関して別表Ⅰと別表Ⅱという2つの基準が掲載されています。

赤本別表Ⅰは「傷害慰謝料については、原則として入通院期間を基礎として別表Iを使用する。」、赤本別表Ⅱは「むち打ち症で他覚所見がない場合等は入通院期間を基礎として別表IIを使用する。」と区別されています。

実務上は、むち打ち症のように「頚椎捻挫、腰椎捻挫」という診断に留まる場合には、赤本別表Ⅱを基準とすると指摘される傾向にありますが、赤本別表ⅠとⅡの区別の基準によれば、傷害慰謝料の算定は原則として赤本別表Ⅰを基準とすることが妥当するといえます。

原則は通院実日数ではなく通院期間で算定

次に、裁判基準における傷害慰謝料の算定方法は、赤本別表Ⅰでは「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」、赤本別表Ⅱでは「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」と整理されています。

上記算定方法では、赤本別表Ⅰ、別表Ⅱいずれにおいても、通院期間だけでなく、通院実日数も参考にする旨が指摘されています。

もっとも、裁判基準における傷害慰謝料の算定にあたっては、原則として通院実日数ではなく通院期間に基づくことが示唆されていることにはご注意ください。

通院実日数が少ない場合であっても、安易に通院実日数の3倍又は3.5倍を基準に傷害慰謝料を算定するのではなく、まずは原則として通院期間を基準に傷害慰謝料を算定することになります。

傷害慰謝料 3つのポイント

傷害慰謝料の算定において押えておくべきポイントは以下の3つです。

傷害慰謝料の算定基準は3つ

傷害慰謝料の算定方法には、自賠責基準、保険会社基準、そして裁判基準の3つの基準が存在します。

自賠責基準よりも保険会社基準が高く、保険会社基準よりも裁判基準が高い傾向があります。

赤本別表Ⅰと赤本別表Ⅱの判断基準

裁判基準を適用する場合でも、赤本別表Ⅰの基準が適用されるのか、または別表Ⅱの基準が適用されるのかによって、慰謝料の金額は数十万円変わることがあります。

赤本別表ⅠとⅡのいずれの基準が適用されるのかは、判断基準に従って慎重に検討しましょう。

原則は通院実日数ではなく通院期間で算定する

裁判基準を適用する場合でも、通院実日数を基準にするのか、または通院期間を基準にして算定していくのかという点も確認しましょう。

裁判基準における傷害慰謝料の算定にあたっては、原則として通院期間を基準にすることが指摘されていることにご留意ください。

結論

以上が傷害慰謝料の算定における留意点に関する解説です。

交通事故における示談交渉では、様々な項目で損害額を争うことになりますが、特に傷害慰謝料の算定は賠償額に大きく影響する項目の一つといえます。

傷害慰謝料は、算定ルールを正しく理解しているかどうかによって、賠償される金額が数十万円も変わってしまうことがあります。

適切な損害賠償を得ることができるように、傷害慰謝料の算定方法は整理しておきましょう。

動画のご紹介

こちらのコラムは、長瀬総合法律事務所が運営するYouTubeチャンネル「リーガルメディアTV」で解説動画が公開されております。

交通事故で弁護士に相談するタイミングはいつ?

2017-11-08

◆ 交通事故の直後がおすすめです

弁護士をあなた専属アドバイザーに。交通事故の直後は最もおすすめです。

交通事故で弁護士に相談するタイミングは、まずは、交通事故直後です。

交通事故に遭った際、どのように対応すればよいか、この先どのような流れで手続きが進んでいくのかなど、わからないことが多いと思われます。たとえば、怪我をした場合、どのような病院に行けば良いのか、どのくらいの頻度で通院を継続すれば良いのかなど、お悩みになるでしょう。

実は、これらの病院の選択や、通院頻度の選択は、後の賠償金請求や後遺障害等級認定の際に関わってくる重要な要素なのです。この点、弁護士に依頼していれば、その都度アドバイスをもらうことができますので、不利な状況に陥る心配がありません。

◆ 交通事故の手続きの流れが聞ける

皆様の声/アンケート

交通事故の手続きの流れは、専門家に聞かなければ分からないことが多いため、精神的な負担を感じる方も少なくありません。

たとえば、人身事故(死亡事故以外)の示談交渉を行う場合。まずは怪我の治療を行い、その怪我が完治または症状固定してから、ようやく示談交渉を開始することになります。症状固定までには1、2年がかかるケースもありますし、症状固定をしたら、後遺障害等級認定請求もしなければなりません。

事故直後に弁護士に依頼すると、このような手続きの流れについて、いつでも聞ける環境を作ることができるため、安心して治療に集中できるようになります。

参考:示談について~知っていますか?適正な賠償金額~

◆ 重症のケースでは早めの相談をおすすめ

交通事故に遭って重大な怪我をしてしまったら、自分では身体を動かせないことがあります。事故現場から救急車で病院に運ばれ、そのまま入院ということもあるでしょう。

このように、ご自分で動けない場合には、無理に弁護士に依頼をする必要はありません。必要な手術などの処置が終わって退院した後など、自分で動けるようになってから弁護士を探しても問題はありません。

どうしても心配な場合、家族や知人などに弁護士に相談に行ってもらい、アドバイスの内容などを聞いておくと良いでしょう。
また、当事務所では、入院されている病院へ直接弁護士がご相談に伺う出張相談サービス(出張相談料・交通費はお客様負担)も行っております。

このような重大なケースでは、早めに弁護士のアドバイスを受けておくことがとても重要です。
怪我をされているご本人の状況が落ち着いたら、家族など、周囲の人が早めのタイミングで弁護士へ相談し、アドバイスをもらうことをおすすめします。

参考:医療機関訪問記録 | 出張相談について


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お問い合わせ

【後遺障害等級14級】保険会社提示額から2倍以上の増額

2016-12-05

【相談前】

本件は,加害車両に衝突され,頚椎捻挫・腰椎捻挫等の傷害を負ってしまったという事案です。

相談者は,本件事故被害に遭った後,酷い頭痛や腰痛に悩まされてしまい,休業も余儀なくされてしまいました。

また,相談者は,兼業主婦でしたが,仕事のみならず,家事にも支障をきたしてしまいました。

 

【相談後】

当事務所でご相談をうかがい,まずは後遺障害等級の認定を目指して被害者請求を行いました。

被害者請求の結果,頚椎捻挫・腰椎捻挫それぞれに神経症状が残るものと認められ,後遺障害等級併合14級と認定されました。

そして,後遺障害等級併合14級と認定されたことを前提に,加害者側保険会社と交渉を行いましたが,加害者側の提示額は,慰謝料,逸失利益いずれも裁判基準よりも低額の提示しかしないために,当方の提示額との開きは大きいままでした。

特に,本件の被害者は兼業主婦であり,仕事のみならず家事にも深刻な支障を来していたのですが,いわゆる家事従事者としての休業損害についても否定的な回答でした。

そこで,相談者が実際に本件事故によって仕事や家事にどのような支障を来したのかを具体的に明らかにする立証活動を行いました。

その結果,最終的には休業損害,慰謝料,後遺障害慰謝料,逸失利益を大幅に増額することができ,当初提示額から2倍以上の増額で解決することができました。

 

【担当弁護士からのコメント】

本件のように,兼業主婦の場合には,傷害慰謝料や逸失利益,後遺障害慰謝料だけでなく,休業損害も大きな争点の1つとなります。長瀬先生

このようなケースでは,本件事故前後で家事や日常生活にどのような支障を来したのかを具体的に立証することがポイントになります。

また,主婦の休業損害は,治療期間をベースとして,割合的に認定される傾向にありますが,立証内容によって,認定される割合も異なることがあります。

主婦の平均年収は約360万円と評価されますので,決して小さい金額ではありません。

どこまで具体的に主張立証するのかは個別の事例に応じた判断が必要ですが,安易に判断しないことが大切といえます。

【後遺障害非該当】後遺障害に準じた賠償金の獲得

2016-12-03

【相談前】

本件は,加害車両に衝突され,頚椎捻挫・腰椎捻挫等の傷害を負ってしまったという事案です。

相談者は,本件事故被害に遭った後,あまりにも酷い頭痛や腰痛に悩まされてしまい,本件事故以前から長年にわたって勤務していた会社も退職せざるを得なくなりました。

 

【相談後】

当事務所でご相談をうかがい,まずは後遺障害等級の認定を目指して被害者請求を行いました。

ところが,それまでの治療中に作成した診断書等の内容中,実際には完治していないにもかかわらず,「治癒」したと判断された旨の記載があったために,後遺障害は認定されませんでした。

しかしながら,相談者の自覚症状の酷さや,長年の勤務先を退職するほどに追い詰められた経緯等からすれば,後遺障害が認定されないこと自体に疑問がありました。

そこで,相談者が本件事故によって受けた被害を具体的に立証するために,本件事故前後の生活状況の変化等について整理しました。

そして,加害者側の保険会社と交渉を重ねた結果,後遺障害非該当を前提としつつも,逸失利益や後遺障害慰謝料を意識した内容の賠償金を獲得して示談に至ることができました。

 

【担当弁護士からのコメント】

本件のように,事故の衝撃内容や事故後の症状の重さ等からすれば,後遺障害等級が認定されてもおかしくないに長瀬先生もかかわらず,自賠責では後遺障害等級が認定されないケースというものも少なからず存在します。

自賠責保険では後遺障害等級が認定されない原因としては複数考えられますが,本件のように,通院治療中の診断書等に,完治していないにもかかわらず,「治癒」したとの記載がある場合にも,後遺障害等級の認定が否定されることがあります。

このようなケースでは,後遺障害等級非該当を前提に示談交渉を行うことが一般的ですが,中には自賠責保険上は後遺障害等級非該当であっても,なお後遺障害等級に該当することを前提に示談交渉を行い,増額が認められることもあります。

どこまで争うか,またどこまで認められるかはケースバイケースの判断となりますが,赤い本に記載される裁判基準はあくまでも一般論であって,必ずしもすべてのケースにあてはまるわけではありません。

実際に受けた被害に見合った,適正な賠償金額が認められるためには具体的な主張・立証を重ねることが大切です。

本件は,諦めずに立証を重ねたことが功を奏した一事例と言えます。

 

【後遺障害等級12級】逸失利益及び後遺障害慰謝料等の増額

2016-12-01

【相談前】

本件は,加害車両に衝突され,「足舟状骨骨折」等の傷害を負ってしまったという事案です。

相談者は,「足舟状骨骨折」等の傷害を負ってしまった結果,足関節の可動域を制限されてしまった上,足関節の疼痛やしびれに悩まされるようになりました。

 

【相談後】

当事務所でご相談をうかがい,被害者請求を行った結果,足関節の神経症状について,「局部に頑固な神経症状を残すもの」と判断され,後遺障害等級12級13号に該当すると認定されました。

その後,加害者加入の保険会社と示談交渉を行いましたが,当初は保険会社も逸失利益等について全額の支払には否定的な見解を述べていました。

もっとも,示談交渉を重ねた結果,最終的に逸失利益や後遺障害慰謝料の増額に応じ,提示額からの増額を実現することができました。

 

【担当弁護士からのコメント】

本件のように,足関節を骨折した場合,主に問題となる後遺障害は,神経症状と機能障害となります。長瀬先生

もっとも,骨折した骨が癒合した場合には,治癒したものとみなされ,神経症状も機能障害も否定されることは珍しくありません。

実際には,骨折によって事故後の日常生活のみならず業務にも深刻な支障を来してしまうことは少なくないのですが,適正な後遺障害として評価されないこともまま見受けられます。

本件では,機能障害は認められなかったものの,神経症状としての後遺障害が認定されたことはせめてもの救いといえます。

そして,後遺障害等級が認定されたとしても,保険会社が裁判基準どおりの保険金を支払ってくれるとは限りません。

この点については,後遺障害等級の認定申請とは別に,裁判基準を理解した上で損害内容について主張・立証をしていく必要があります。

損害内容を具体的に主張・立証するにあたっては,ご相談者の協力が不可欠です。

中には何度も打ち合わせを重ねさせていただくケースもありますが,その際にはご理解・ご協力をお願いしています。

【後遺障害非該当】傷害慰謝料の増額が認められた事例

2016-11-29

【相談前】

本件は,自動車に乗車中,後方から加害車両に追突され,頚椎捻挫等のほか,肩腱板不全損傷,の傷害を負ってしまったという事案です。

相談者は加害者加入の保険会社から,途中まで治療費を立替払してもらっていましたが,約半年を経過した時点で治療費の支払を打ち切られてしまいました。

 

【相談後】

当事務所でご相談をうかがい,治療終了後の示談交渉を担当いたしました。

保険会社からは,裁判基準全額の傷害慰謝料を出すことはできないとの回答がありましたが,改めて作成した医師の意見書等を根拠に交渉を重ねた結果,最終的に裁判基準に基づいた傷害慰謝料が支払われることで示談成立に至りました。

 

【担当弁護士からのコメント】

本件では,治療終了後からの対応となったため,示談交渉による増額が主な活動となりました。長瀬先生

本件では,医師の追加意見書等を踏まえて交渉することで,最終的には裁判基準をベースとした傷害慰謝料を支払ってもらうことで示談成立に至りました。

もっとも,治療終了前から関与していたのであれば,肩の腱板不全損傷の点についてもより傷病内容を具体的に立証できる方法があったのではないかと思われるケースでした。

交通事故被害では,できる限り早期の対応をすることで,最終的な解決内容が変わることは珍しくありません。

交通事故被害にあわれた場合には,ご依頼いただかなくとも,まずはご相談をしていただくことをお勧めします。

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