はじめに
交通事故で負ったケガについて、後遺障害等級を申請しても、医証不足や症状と事故の因果関係が明確でないことを理由に、認定が却下される(=不認定とされる)場合があります。さらに、被害者が不服を感じて異議申立や裁判へ持ち込んでも、裁判所が「後遺障害とは認められない」と結論づけた判例も少なくありません。こうした後遺障害等級を否定した裁判例は、医証や因果関係をどう立証すればいいかを逆に学ぶヒントになります。
本項では、裁判所が後遺障害等級を否定した主な理由(医証不足・因果関係不明など)を事例を通じて解説します。認定が欲しい被害者にとっては、どのような落とし穴を避けるべきかを把握し、的確な医証と通院実績を揃えることの重要性が再認識できるでしょう。
Q&A
Q1:後遺障害が非該当とされた判例では、どんな点が主な理由になるのですか?
医師の診断書が不十分(通院が短期・検査不足など)や、痛みの原因が事故以外にある可能性が否定できない、症状固定前に治療をやめたなどが多い理由です。裁判所が「本当に事故で生じた障害なのか?」と疑う要素があると否定される可能性があります。
Q2:医証不足とは具体的にどんな状況を指すのでしょうか?
たとえば、MRIや神経学的テストを行っていない、医師が「事故との因果関係ははっきりしない」と書いている、後遺障害診断書の内容が簡素で症状の継続が証明されていないなどを指します。客観的な検査結果がないと裁判所は慎重になりがちです。
Q3:むちうちで14級や12級を求めていたのに、不認定となった裁判例もあるのですか?
はい、よくあります。むちうち症は画像で異常が確認しにくいため、検査不足や通院実績の欠如で否定されやすい傾向にあります。裁判例でも「単に首が痛いと主張するだけでは不十分」として非該当と判断されることもあります。
Q4:症状と事故の因果関係を否定されるのはどんな場合でしょう?
事故の何日も後に痛みを訴え始めた、別のケガや加齢要因が絡んでいる、他の病院で「先天性の問題」と診断されているなどの事情があると、裁判所が「事故以外に原因があるのでは?」と考えることが典型です。
Q5:裁判例で後遺障害等級を否定された場合、異議申立や控訴などで再度認定を狙えますか?
一度裁判の判決が出ると、判決に不服があれば控訴などの上級審を目指す手段はあります。ただし、同じ証拠だけだと結果が変わりにくいので、新たな医証や専門家意見などが必要になるでしょう。異議申立は保険会社の認定機関(紛争処理機構など)段階でも行えます。
Q6:後遺障害を否定された判例を参考にしない方がいいように思えますが、なぜ学ぶ必要があるのでしょうか?
「なぜ否定されたのか」という判断理由を知ることで、認定を得たい被害者が落とし穴を避ける学びができるからです。たとえば、医証不足や因果関係があいまいで否定された判例を学べば、対策として「しっかり検査を受けよう」「医師と連携しよう」と事前に準備できます。
解説
医証不足で否定された事例
- 短期通院で検査も不十分
- 事故後、痛みやしびれを訴えつつも、数ヶ月で治療をやめたなどで医師が後遺障害診断書を十分に書けない状態だった事例。
- 裁判所は「十分な治療と検査が行われていないため、症状が事故由来か断定できない」として非該当を判断することが想定される。
- MRIやCTなど画像所見なし
- むちうち症で神経学的テストも受けず、単に痛みを訴えるだけで認定を狙ったが、根拠薄として否定される事例。
- 「症状固定時の医師記載が抽象的」だったとも指摘されるケースも想定される。
- 後遺障害診断書の内容が不十分
- 診断書に症状の具体的記載や検査結果がほとんどない。「痛みが残る」など曖昧な記載だけでは、裁判所が信用しないケースも想定される。
因果関係が不明で否定された判例
- 加齢性変形か事故によるものか区別できない
- MRI画像で椎間板変性が見られたが、年齢的な退行変性とも考えられるとして、事故由来の後遺障害ではないと判断。
- 裁判所が専門医の意見を引用し、「事故以前から蓄積していた可能性」とみて非該当と判断されるケース。
- 事故後しばらくして別の要因が介在
- 事故で軽いケガをしたものの、後に別の転倒事故やスポーツ外傷が発生し、痛みが増した可能性があるとして因果関係を否定。
- 症状発現が遅すぎる
- 事故から1週間〜1ヶ月後に首の痛みを初めて訴え始めたが、通院記録や医師の初診時メモには首の痛みが書かれていない。
- 裁判所は「事故との直接的因果関係が薄い」と結論づけ、後遺障害非該当と判断される可能性。
実務での対策
- 十分な治療と検査
MRI・神経学的テストなど、客観的データを収集しておく。整骨院のみでの施術では不十分で、整形外科の医師による診断を並行するなど工夫が必要。 - 症状固定前に通院を中断しない
痛みが続いているなら、最終的に症状固定とされるまで定期的に通院し、カルテや診断書に症状経過を詳しく残す。 - 事故との因果関係を証明
「事故直後から痛みがあった」「しびれが徐々に増した」等、一貫性を示す。別の要因(加齢・他の事故)を疑われないよう、医師に相談して記録を明確にしておく。
弁護士に相談するメリット
- 医証の充実化
弁護士が医師へ「どのような検査結果が必要か」「後遺障害診断書にどんな内容が求められるか」などを詳細に伝え、不十分な記載を避けられる。 - 因果関係立証の手助け
保険会社や審査機関に「別原因の可能性がある」と主張された場合、弁護士が異議申立や裁判で事故との因果関係を論理的に示す。 - 類似不認定判例を逆に活かす
判例を分析し、「この事例で否定されたのは医証不足だった。本件では検査を充分しているので当てはまらない」と反論材料に活用。 - 異議申立・裁判対応
後遺障害非該当とされたら、弁護士が追加医証(専門医の見解など)を用いて再申請や異議申立を実施。奏効しない場合には裁判での立証へ進む。 - 弁護士費用特約
裁判に移行する場合でも、弁護士費用特約があれば費用負担を軽減して弁護士に手続きを任せられる。
まとめ
交通事故で後遺障害等級が否定される判例を見ると、医証不足や事故との因果関係不明など、主に次の理由が挙げられることが分かります。
- 十分な治療・検査を行っていない
→ 通院期間が短い、MRI・神経学的テストを受けていない - 後遺障害診断書の内容があいまい
→ 「痛い」だけで具体的所見がない、医師が積極的に事故との因果を認めていない - 別要因が疑われる
→ 加齢性変化、他の怪我・病気の影響などで裁判所が事故由来の障害とは認めず
被害者が適切に通院・検査を続け、医師との連携を密にし、神経学的テストや専門医意見書を揃えるなど医証を充実させれば、裁判でも認定に繋がる可能性が高まります。もし保険会社が「非該当」と言っても、異議申立や裁判で逆転する例もあるため、お早めに弁護士へ相談することをご検討ください。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、後遺障害認定で否定された事例にも対応し、追加検査や専門医紹介、裁判戦略を通じて認定を勝ち取った経験が豊富です。保険会社の不当な不認定に疑問があれば、あきらめずにぜひご相談ください。
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