【ご質問】
私は主婦をしていますが、交通事故被害に遭ったために、後遺障害が残ると言われてしまいました。
実際、事故後は身体も思うように動かすことができず、これまでどおり家事や育児を行うことはできなくなってしまうかもしれません。
このように事故後に後遺障害が残ってしまった場合、加害者の方に補償してもらうことはできるのでしょうか。
【回答】
後遺障害が残存しているとして後遺障害等級が認定された場合、後遺障害逸失利益が認められます。
逸失利益は、以下の計算方法で算定されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
【解説】
1 交通事故における後遺障害逸失利益
交通事故被害に遭った場合、入通院治療を余儀なくされたばかりか、長期の治療を行っても症状が完治せず、後遺障害が残ってしまうこともあります。
このように、後遺障害が残ってしまった場合には、本来得ることができるはずであった収入を得ることができなくなってしまった分を、逸失利益として損害賠償請求できることになります。
2 主婦の基礎収入
後遺障害逸失利益の算定にあたっては、被害者の①基礎収入、②労働能力喪失率、③労働能力喪失率に対応するライプニッツ係数、の3つを検討する必要があります。
被害者が主婦の場合、①基礎収入は、女性全年齢学歴計平賃金をもとに算定することになります。
3 主婦の労働能力喪失率
次に、被害者が主婦の場合における②労働能力喪失率ですが、原則として後遺障害等級に応じて決まることになります。
後遺障害等級別の労働能力喪失率は以下のとおりです。
ただし、下記一覧表は、あくまでも裁判基準を前提とした原則的なものであり、症状や被害の程度、被害者の職業などによって、労働能力喪失率が増減する場合があることはご留意ください。
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
100% | 100% | 100% | 92% | 79% | 67% | 56% |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
45% | 35% | 27% | 20% | 14% | 9% | 5% |
4 主婦の労働能力喪失期間
(1) 労働能力喪失期間とは
労働能力喪失期間とは、後遺障害が残存することによって労働能力が制限される期間のことをいいます。
(2) 労働能力喪失期間の始期
労働能力喪失期間の始期は、症状固定日とされます。
ただし、児童や学生など、まだ働いていない被害者の場合には、労働能力喪失期間の始期は原則として18歳とされますが、大学卒業を前提とする場合には大学卒業時が始期となります。
(3) 労働能力喪失期間の終期
労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳とされます。
ただし、症状固定時の年齢が67歳を超える場合には、平均余命の2分の1が労働能力喪失期間とされます。
(4) 労働能力喪失期間の修正
もっとも、労働能力喪失期間の終期は、被害者の健康状態や能力、また後遺障害の程度によっても修正されることがありますので、必ずしも一律に上記の考え方があてはまるわけではありません。
特に、むち打ち症の場合、後遺障害等級12級13号では労働能力喪失期間は10年、後遺障害等級14級9号では労働能力喪失期間は5年程度に制限されることがあります。
5 主婦の労働能力喪失率
逸失利益の算定にあたっては、労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数を考慮する必要があります。
なぜ労働能力喪失期間をそのまま考慮するのではなく、労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数を考慮しなければならないかというと、本来逸失利益とは将来受け取ることができる賠償額であるところ、この賠償額を現在受け取るために将来分の利息を控除する必要がある、という考えによるためです。
労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数によった場合、利息分を控除することになるために、労働能力喪失期間そのものよりも少なくなることになります。
例えば、労働能力喪失期間5年に対応するライプニッツ係数は、4.3295となります。