はじめに
交通事故により後遺障害が残った場合や、被害者が亡くなった場合、被害者(遺族)は「逸失利益」を請求することができます。逸失利益とは、事故がなければ将来にわたって得られたはずの収入の減少分を指し、損害賠償金のなかでも高額になりやすい項目です。
本記事では、逸失利益の意味、計算方法、ライプニッツ係数の仕組みについて解説します。
逸失利益とは
逸失利益とは、交通事故による後遺障害や死亡がなければ、被害者が将来得られたはずの経済的利益をいいます。後遺障害により労働能力が低下した場合(後遺障害逸失利益)と、死亡した場合(死亡逸失利益)の2種類があります。
逸失利益は、慰謝料とは別に請求できる損害賠償項目です。後遺障害等級が上位であるほど、また被害者の収入が高いほど、逸失利益の金額は大きくなります。
後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算定します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入
給与所得者の場合は事故前の実収入、自営業者の場合は確定申告の所得額が基礎となります。主婦(主夫)の場合は賃金センサスの女性労働者の平均賃金を用います。若年者(概ね30歳未満)で実収入が低い場合は、将来の賃金上昇を考慮し、賃金センサスの全年齢平均賃金を基礎収入とすることがあります。
労働能力喪失率
後遺障害等級に応じて定められた割合です。たとえば、14級では5%、12級では14%、1級では100%とされています。ただし、これはあくまで目安であり、被害者の職種や後遺障害の内容によって調整されることがあります。
労働能力喪失期間
原則として、症状固定時の年齢から67歳までの年数です。症状固定時に67歳を超えている場合や、67歳までの年数が平均余命の2分の1より短い場合は、平均余命の2分の1の年数を用います。
なお、むちうちによる14級の場合は、喪失期間が5年程度に制限されることが多く、12級の場合は10年程度とされることがあります。
ライプニッツ係数とは
ライプニッツ係数とは、将来にわたって受け取るはずの収入を、現時点での一時金として受け取るために用いる中間利息控除の係数です。将来の収入を現在価値に換算するために使用します。
令和2年4月1日以降に発生した事故については、民法改正により法定利率が年3%に変更されたため、年3%のライプニッツ係数を使用します。それ以前の事故については年5%の係数を使用します。
たとえば、労働能力喪失期間が20年の場合、年3%のライプニッツ係数は14.8775です。これは、20年間にわたる収入の現在価値が、1年あたりの金額の14.8775倍であることを意味します。
後遺障害逸失利益の計算例
例1:会社員(40歳)が後遺障害12級に認定された場合
基礎収入:年収500万円
労働能力喪失率:14%(12級)
労働能力喪失期間:27年(40歳から67歳まで)
ライプニッツ係数(27年・年3%):18.3270
500万円 × 14% × 18.3270 = 約1,283万円
例2:主婦(35歳)が後遺障害14級に認定された場合
基礎収入:賃金センサス女性平均約399万円
労働能力喪失率:5%(14級)
労働能力喪失期間:5年(むちうち14級の場合)
ライプニッツ係数(5年・年3%):4.5797
399万円 × 5% × 4.5797 = 約91万円
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、以下の計算式で算定します。
基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
死亡した場合は被害者本人の生活費がかからなくなるため、基礎収入から一定割合の生活費を控除します。生活費控除率は、被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合は40%、被扶養者が2人以上の場合は30%、女性(主婦を含む)の場合は30%、男性(独身)の場合は50%が目安です。
逸失利益の請求で注意すべきポイント
逸失利益は高額になりやすい反面、基礎収入の認定、労働能力喪失率や喪失期間の評価について保険会社と争いになることが多い項目です。特に、むちうちの場合の喪失期間や、若年者・主婦の基礎収入の算定については、保険会社が低い数値で提示してくることが少なくありません。
適正な逸失利益を請求するためには、弁護士に依頼のうえ、裁判例に基づく主張を行うことが有効です。
まとめ
逸失利益は、後遺障害や死亡事故において損害賠償金の中核を占める項目です。計算には基礎収入、労働能力喪失率、ライプニッツ係数の3つの要素が必要であり、それぞれの数値の取り方によって金額が大きく変動します。保険会社の提示額に疑問がある場合は、弁護士に相談のうえ、適正額を確認することをお勧めします。
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