脊髄損傷などの重い後遺障害が残った場合、治療が終わった後も、長期間の介護や、自宅の改修、福祉機器の購入といった費用が続きます。これらの費用を損害賠償として請求できるのかは、被害者と家族にとって大きな関心事です。
将来の介護費や住宅改修費は、損害として認められる可能性があります。ただし、認められるのは必要かつ相当な範囲であり、介護がどの程度必要か、誰が介護するか、どのような改修が身体の状態に対応しているかを、資料によって示す必要があります。
この記事では、重度の後遺障害が残った交通事故を想定し、介護の必要性の整理、将来介護費の考え方、住宅改修や福祉機器の費用、資料と専門家の役割を説明します。
介護の必要性と態様
将来の介護費を検討する出発点は、どのような介護が、どのくらいの時間必要かを具体的にすることです。移乗、排せつ、入浴、体位の変換、食事、見守りなど、日常の動作ごとに介助の内容を整理します。
介護には、常に介護を要する状態と、必要な場面で介護を要する状態があり、自賠責保険の後遺障害の等級でも区別されています。等級は介護費を検討するうえで重要な資料ですが、実際に必要な介護の内容は、医師の意見や日々の介護の記録によって示すことになります。
誰が介護するかも重要です。家族(近親者)が介護する場合と、介護事業者などの職業介護人に依頼する場合とでは、金額の評価が異なるのが一般的です。家族が高齢になった後は職業介護人に切り替えることを前提に、期間を分けて計算することもあります。
将来介護費の検討
将来介護費は、一般に、1日あたりの介護費用に介護が必要な期間の日数を掛け合わせて算出されます。期間は平均余命などを参考に定められます。
将来の費用を賠償金として一括で受け取る場合、将来受け取るはずの金額から運用益に相当する部分を差し引く計算(中間利息の控除)が行われます。控除に用いる利率は法律で定められており、原則として損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用います。2026年4月1日から2029年3月31日までの法定利率は年3%で、過去の事故では旧法の適用も確認します。
介護保険や障害福祉サービスなどの公的な給付を受けている場合、それが賠償額から差し引かれるかどうかは、給付の種類や性質によって扱いが異なります。受けている給付の内容を整理しておくことが必要です。
住宅改修・福祉機器などの費用
自宅の段差の解消、手すりの設置、浴室やトイレの改修、車いすの使用を前提とした改築などの費用も、必要かつ相当な範囲で損害として検討されます。福祉機器や介護用品、車両の改造費なども同様です。費目ごとの資料を整理すると次のとおりです。
| 費目 | 必要性を示す資料 | 見積り・記録 |
| 将来介護費 | 医師の意見書、介護の記録、介護計画 | 介護事業者の料金表、家族の介護時間の記録 |
| 住宅改修費 | 身体の状態と住環境の関係を示す医師・リハビリ職の意見 | 改修の見積書、図面、改修前の写真 |
| 福祉機器・介護用品 | 必要性に関する医師等の意見 | 見積書、耐用年数と買替え時期 |
| 車両改造費 | 移動の方法に関する資料 | 見積書、買替え時期 |
| 通院・付添いの交通費 | 通院の記録 | 領収書 |
福祉機器や車両は、耐用年数に応じた将来の買替え費用も検討の対象になります。一方、住宅の改修によって家族も利益を受ける部分がある場合などには、費用の一部に限って認められることもあります。
資料と専門家の役割
将来の費用の請求では、複数の専門家の意見が必要になります。医師は介護や改修の必要性について、理学療法士や作業療法士は身体の状態に合った住環境について、ケアマネジャーは介護の計画について、建築士や工務店は改修の内容と費用について、それぞれ意見や資料を提供します。
弁護士は、これらの資料を損害項目ごとに整理し、必要性と相当性をどのように示すかを検討します。自宅の状況を確認する必要がある場合は、現地での確認を行うこともあります。
よくある質問
Q 家族が介護している場合も、介護費を請求できますか?
A 家族による介護も損害として評価の対象になります。金額は、職業介護人に依頼する場合より低く評価されることが一般的です。
Q 自宅の建替え費用は認められますか?
A 障害に対応するために必要かつ相当な範囲で検討されます。建替えの費用全額が認められるとは限らず、改修で対応できる範囲や家族が受ける利益なども考慮されます。
Q 示談の後に、介護の負担が増えた場合はどうなりますか?
A 示談で清算していると、原則として追加の請求は困難です。将来の見通しを含めて検討したうえで示談することが必要です。
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