保険会社から示談案が届き、この金額で署名してよいのか判断がつかないという方は少なくありません。
示談書に署名すると、原則としてその内容で解決したことになり、後から追加の請求をすることは難しくなります。なお、示談は署名がなくても合意により成立する場合があるため、電話やメールで承諾する前にも確認が必要です。署名の前に、損害項目ごとの金額と計算の根拠、過失割合、すでに支払われた金額(既払金)の扱い、示談の対象となる範囲を確認してください。
この記事では、人身事故の示談案を受け取った被害者を想定し、示談案の読み方と確認すべき資料、署名前の確認事項を説明します。
示談案の読み方
示談案は、一般に、損害の総額を算出し、過失割合に応じた減額(過失相殺)を行い、既払金を差し引いて支払額を示す構成になっています。支払額だけを見るのではなく、この順序で内訳を確認します。
仮定の例として、損害の総額が300万円、被害者の過失が10パーセント、治療費として保険会社が医療機関に直接支払った額が120万円の場合、300万円から10パーセントを差し引いた270万円から、さらに120万円を差し引いた150万円が支払額として示されることになります。この例は計算の順序を示すためのもので、実際の金額や計算方法は事案によって異なります。
慰謝料・休業損害などの区分
示談案には、治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料などの項目が並んでいます。項目ごとに、根拠となる資料と確認する理由を整理すると次のとおりです。
| 損害項目 | 確認する資料 | 確認する理由 |
| 治療費 | 診療報酬明細書、領収書 | 既払金として差し引かれる額と一致しているか |
| 通院交通費 | 領収書、通院日の記録 | 計上漏れがないか |
| 休業損害 | 休業損害証明書、源泉徴収票、確定申告書 | 基礎となる収入と休業日数の根拠が示されているか |
| 入通院慰謝料 | 入院・通院の期間と日数の記録 | どの基準で計算されているか |
| 後遺障害慰謝料・逸失利益 | 等級の認定結果、収入資料 | 等級、労働能力の喪失の程度と期間の前提 |
| 物損 | 修理見積書、写真 | 人身部分とは別に解決済みか |
慰謝料などの算定には、自賠責保険の基準、各保険会社の基準、裁判で用いられる基準(いわゆる弁護士基準、裁判基準)があります。裁判で用いられる基準は、訴訟になった場合に認められうる水準の目安であり、交渉でその金額が当然に認められるものではありません。どの基準で計算され、どの前提の違いが金額の差になっているかを確認することが大切です。
過失割合と既払金
過失割合
被害者にも過失があるとされると、その割合に応じて損害の総額が減額されます。過失割合は損害全体に影響するため、金額が大きい事案ほど結果への影響も大きくなります。事故状況の資料をもとに、示された割合の根拠を確認してください。
既払金
既払金には、保険会社が医療機関に直接支払った治療費や、示談前に受け取った内払金が含まれます。自賠責保険から先に支払を受けている場合もあります。差し引かれている金額が実際の受領額と一致しているか、明細で確認します。
署名前の確認と相談準備
署名の前に、次の点を確認してください。
- 示談の対象範囲(人身と物損の区別、後遺障害分を含むかどうか)
- 清算条項(示談書に定めるほかに互いに請求をしないとする条項)の有無と範囲
- 支払の時期と方法
- 時効の期限(起算点は損害の内容によって異なります)
- 弁護士費用特約の有無
提示額に疑問がある場合、弁護士に相談することで、各項目の前提と根拠を検討できます。ただし、交渉によって金額が変わるかどうかは事案によって異なり、弁護士費用との関係も考慮して依頼を判断することになります。
よくある質問
Q 保険会社から早めに回答するよう言われました。すぐに署名しなければなりませんか?
A 保険会社が示す回答期限は、法律上の期限ではないことが通常です。ただし、損害賠償の請求には時効があるため、期限を確認したうえで検討してください。
Q 弁護士が交渉すれば、示談金は増えますか?
A 金額が変わるかどうかは、損害の内容、証拠、過失割合、既払金などによって異なり、結果を約束することはできません。弁護士費用を差し引いた結果も含めて、相談時に見通しを確認してください。
Q 物損だけ先に示談してもよいですか?
A 可能ですが、物損の示談で合意した過失割合が、人身部分の交渉でも前提とされやすくなります。過失割合に争いがある場合は、物損の示談の前に確認してください。
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