交通事故により事業所得者の方が休業を余儀なくされ、取引先との事業の契約が解除されてしまった場合、契約の解除により生じた損害は保険会社に請求することができるでしょうか。
これは、契約の解除という事態が事故によって引き起こされたと言えるかどうかという問題です。
交通事故による損害賠償は、事故と損害とが「相当因果関係」で結ばれているときにこれを請求することができます。
相当因果関係とは、Aという行為からBという結果が生じることが社会通念上相当であると言える場合にのみ、法的な因果関係があると認める概念です。
どこまでが相当因果関係があると言えるのかは判断が難しいところがあります。
裁判において裁判所が両者の主張を元に社会通念を踏まえて客観的に判断します。
そして、交通事故の加害者にとって予見が不可能な特別の事情により生じた損害は、相当因果関係は認められません(民法416条2項の709条への類推適用)。
交通事故においては、この因果関係がどこまで認められるかという点について、注目すべき裁判例として東京地裁平成18年7月19日判決があります。
この事案は、映像製作の企画・演出業務に携わっていた被害者が、DVD制作会社から映像の注文を受け制作していたところ交通事故に遭い、制作の続行が不可能となって契約を解除されてしまったというものです。
判決は、①契約の解除が交通事故に起因するものであること、②契約の解除という事態は加害者にとって予測不可能な特別損害とは言えず、通常損害として賠償するべきものであること、という2点について肯定し、契約解除による被害者の損害は1080万円であるとして、これを大きく認めました。
本件では、制作会社との契約内容と、契約解除に至るまでの経緯が被害者側から詳細に示されていました。
それが因果関係を肯定する判断に繋がった重要なポイントであったと考えられます。