【ご質問】
私は定年退職して1人暮らしをしていますが、これまでは自分の身の回りのことはすべて自分一人でこなしていました。
ところが、突然に交通事故被害に遭ってしまい、自分の身の回りのことも1人ではできなくなってしまいました。
この場合には、休業損害を請求することはできないのでしょうか?
【回答】
1人暮らしの方の場合、家事労働ができなくなったという理由で休業損害を請求しても、認められないこともあります。
もっとも、1人暮らしではあるものの、他人(例えば近隣に住む親族等)のために家事労働をしていたりする場合には、休業損害が認められる可能性はあります。
また、家事労働ができなくなったために家政婦に依頼する場合には、この費用を損害として請求することが考えられます。
【解説】
1 家事労働分の休業損害
専業主婦であっても、交通事故被害にあって家事労働ができなくなった場合には、休業損害を請求することが可能です。
これは、専業主婦が担当する家事労働によって、家政婦等に依頼する必要がなくなり、その分の支出を免れているとみることができるためです。
2 1人暮らしの場合
では、1人暮らしのケースでは、家事労働によって支出を免れているということができるでしょうか。
この点、1人暮らしの方の場合、家事を他人のために担当しているということではなく、あくまでも自分のために行っているにすぎないということが通常です。
1人暮らしの方が家事を担当しているからといって、他人のために家事を行っているわけではなく、財産上の利益を生み出していると評価することはできません。
したがって、1人暮らしの方が交通事故被害に遭って家事ができなくなったことに対し、家事労働分の休業損害を請求することは難しいと思われます。
もっとも、1人暮らしではあるものの、他人(例えば近隣に住む親族等)のために家事労働をしていたりする場合には、休業損害が認められる可能性はあります。
また、家事労働ができなくなったために家政婦に依頼する場合には、この費用を損害として請求することが考えられます。
3 1人暮らしの休業損害が問題となった裁判例
以下では、1人暮らしの休業損害が問題となった、実際の裁判例をご紹介します。
肯定例・否定例いずれもありますので、実際のケースでは、どちらに該当する可能性があるのかを慎重に検討する必要があります。
肯定例:
① 東京高判平成15年10月30日
78歳の1人暮らしの女性の事例ですが、休業損害及び逸失利益の算定にあたり、「自分の生活を維持するための家事労働に従事することができなくなった場合においても、それによる損害を休業損害と評価する」として、賃金センサス65歳以上の賃金額を基準に認定されています。
否定例:
① 名古屋地判平成19年12月12日
51歳の1人暮らしの女性の事例ですが、「原告は1人暮らしであり、家事労働分を休業損害の算定の基礎収入とすることはできない」と判断されています(但し、パート労働者であるため、パート収入を基礎に休業損害は認定されています)。