【ご質問】
私は70歳を過ぎていますが、交通事故に遭うまでは夫の食事の用意や洗濯など、家事をしてきていました。
今回、交通事故に遭ってしまい、思うように身体を動かすことができなくなり、家事全般を担当することができなくなってしまいました。
私のような高齢者の場合には、休業損害を請求することはできないのでしょうか。
【回答】
高齢者の方であっても、家事等ができなくなったことによる休業損害を請求することは可能です。
但し、休業損害算定にあたり、基礎収入の認定は、産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額ではなく、年齢別平均賃金額が採用されたりするなどの修正がありうることにご留意ください。
【解説】
1 主婦の休業損害
専業主婦であっても、交通事故被害にあって家事労働ができなくなった場合には、休業損害を請求することが可能です。
主婦が家事労働をすることができなくなった場合には、休業損害の基礎収入は、事故当時の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額と判断されることが一般的です。
もっとも、高齢者であっても事故以前に担当することができた家事労働ができなくなれば、休業損害として請求すること自体は可能ですが、被害者の年齢や家族構成、事故以前に担当していた家事労働の内容や体調等に照らして、休業損害を算定する際の基礎収入は、減額修正されることがあります。
2 高齢者の場合の修正例
以下では、高齢者の休業損害が問題となった、実際の裁判例をご紹介します。
以下の裁判例をご覧いただければ、高齢者であっても休業損害が認定されるものの、基礎収入は個別の事例によって異なることがお分かりになるかと思います。
家事労働に関する休業損害は、交通事故被害に遭うことによって実際にどのような影響を受けたのかを具体的に立証することができるかどうかによって認定額に違いが出ることになります。
個別の事例に沿った立証活動を意識する必要があります。
① 東京地判平成13年9月5日 交民34・5・1221
61歳の主婦の休業損害の算定にあたり、基礎収入を賃金センサス女性学歴計60歳から64歳の賃金額を採用した上で、入通院の一部については100%の休業損害、その余の794日間については50%の休業損害を認定しています。
② 大阪地判平成18年6月26日 交民39・3・859
65歳の女性について、事故当時、家事労働を行っていたとは言い難い面があるものの、事故に遭わなければ家事労働に従事していた可能性も否定できないとして、賃金センサス女性全年齢学歴計平均の30%を基礎に休業損害が認定されています。
③ 東京地判平成19年5月15日 交民40・3・644
症状固定時73歳の女性が、娘と家事を分担し、記事を雑誌に寄稿したり講演活動をしたりしていたケースでは、賃金センサス女性学歴計65歳以上平均の80%を基礎に休業損害が認定されています。