
相談前の状況
本件は、当時学生だった依頼者が学校へ登校する途中、自転車で走行中に自動車と衝突事故を起こしたことにより、前歯を含む口腔内に大きな損傷を負った事案です。
事故直後、依頼者は救急車で病院へ搬送され、そこで応急処置を受けました。その際、当日に歯がかけていることが確認されましたが、骨折や脳に関する大きな外傷はなかったため、比較的早期に退院し、後日整形外科で治療を開始することになりました。
しかし、歯の損傷は深刻なものでした。事故当日に歯が欠けた状態であることは明らかで、右の前歯が完全に脱落し、左の前歯も欠けて神経を損傷している恐れがあるという診断を受けました。
そこで歯科医院を受診し、痛みに対処しつつ、抜歯や神経の治療を視野に入れた治療計画が立てられました。
歯科治療は一般的に時間がかかることが多く、欠けた歯の補綴(ほてつ)や神経処置、仮歯・被せ物等、段階を踏んで治療を進めていく必要がありました。
さらに、歯科医院での治療後、将来的にインプラントを検討する必要があることがわかり、最終的にはインプラントの埋入が必要と判断されるに至りました。加えて、歯列全体への影響や今後のメンテナンス費用を考慮する必要がありました。
ところが、損害保険会社側は「一部の治療は虫歯が原因であり、事故とは無関係だ」と主張して、治療費の一部を否認しようとしました。また、将来のインプラント治療についても、「必要性が不確実だ」として、将来治療費に対して否定的な立場をとってきたのです。結果として、保険会社から提示された損害賠償額は約数十万円という金額でした。
しかし、依頼者にとってはインプラントを含む包括的な歯科治療が不可欠であり、提示金額では到底納得できるものではありませんでした。また、学生という年齢を考えると、今後長きにわたって歯の問題と向き合うリスクがあり、より適切な補償が必要であると強く感じていました。
このように、相手方保険会社との認識のずれや、歯科治療の特殊性(虫歯と外傷の因果関係の線引き、将来治療費の算定基準など)によって交渉が難航することになり、依頼者とそのご家族は大きな不安を抱えていました。「本当に将来治療費が認められるのだろうか」「インプラント費用をいったん立て替えないといけないのでは」「そもそもどこまで事故との因果関係を証明できるのか」といった疑問が山積みになっていたのです。
相談後の対応
依頼者とそのご家族は、相手方保険会社からの提示があまりにも低く、また今後のインプラント治療が不透明になってしまうことを懸念し、当事務所にご相談されました。当事務所ではまず、事故による歯の損傷状況や治療の経緯、将来治療に必要となる費用をしっかりと把握するため、以下の対応を行いました。
医療記録・診断書の精査
総合病院、整形外科、歯科医院、それぞれでの診察記録・診断書・治療計画書を取り寄せ、事故当日の歯の欠損状況や、その後の治療方針がどのように決定されたかを確認しました。特に歯科医院の診断書には、「事故により欠損した歯である」「左前歯も根本から神経が損傷している」「インプラント治療が必要になる可能性が高い」などの重要な記載があり、これが損害賠償交渉の基礎資料となりました。
歯科医師との連携
歯の補綴治療は、事故との因果関係や治療内容の正当性を医学的に証明することが非常に重要です。そのため、担当歯科医師から口頭や文書により、詳しい説明を得るよう努めました。具体的には、「実際にインプラント治療が必要となる根拠は何か」などについて、意見書やカルテの記録をもとに説明を受け、これらを交渉資料に反映させました。
将来治療費の見積もり算定
インプラント治療は一般的に高額であり、またメンテナンス費用や、年数が経過した後の再治療費用など、長期的に費用が発生する可能性があります。そこで、将来のインプラント治療にかかる費用の見積もりを取得し、治療本体の費用だけでなく、メンテナンスや再手術の可能性に対する予測費用も検討しました。さらに、依頼者がまだ若年であるため、インプラントを行う時期までのブランクによって仮歯や差し歯などの暫定的な措置が必要となるケースについても費用を試算しました。
損害保険会社との交渉
上記の資料をそろえた上で、損害保険会社と交渉を進めました。保険会社側は当初、「インプラントは必ずしも必要ない」「虫歯部分の治療費は事故と無関係」との姿勢を崩しませんでした。しかし、歯科医院の診断内容やレントゲン、カルテ等から、事故と歯の損傷との因果関係を医学的に立証し、またインプラントが事故による欠損歯を補う最善の治療であることを示す客観的な資料を提示することで、将来治療費の一部を認めさせることに成功しました。
解決金額の増額
最終的に当初提示された約数十万円という金額から大幅に増額した解決金数百万円を得ることができ、将来的に依頼者が負担すべきインプラント治療費の補うだけの金額を確保しました。具体的な金額の公開は控えますが、依頼者が将来インプラントを受ける際、自己負担が最低限に抑えられるような補償となるよう手続きを進めました。
担当弁護士からのコメント
本件は、自転車対自動車という交通事故の典型的なケースではあるものの、歯の損傷やインプラント治療の是非、事故外傷の因果関係など、複数の論点が絡み合ったため難航した事案でした。特に、歯科治療は医療の中でも因果関係をめぐる争いが起こりやすい分野です。虫歯があった場合、加害者側の保険会社は「事故に関係なく、もともと必要な治療ではないか」という主張をすることが少なくありません。
しかし、実際には事故の衝撃によって歯が欠けたり神経が死んだりする場合は多く、見た目の問題だけでなく、今後の生活や食事、発音にも大きく影響を及ぼします。成長期にある高校生や大学生の場合、骨格の発達状況から治療開始のタイミングが限られるなど、さらに考慮すべき点が増えるのです。インプラントはとても有用な治療法ですが、費用が高額であること、定期的なメンテナンスが必要であること、再手術の可能性があることなど、長期的な視点で補償を考えなければなりません。
本件では、歯科医院から客観的な資料を収集し、事故発生時点での歯の状態や、インプラントに至る必要性を検証しました。その結果、保険会社もやむを得ず将来治療費を一部認めざるを得ない状況となり、依頼者にとって納得のいく示談金額を得ることができました。
弁護士のサポートがなければ、「保険会社の言うことだからしかたがない」として低い賠償額で示談してしまう可能性もあります。特に将来治療費は、被害者の方が自分で正しく見積もるのは難しく、適切な証拠をそろえて交渉しないと認められにくい分野です。
交通事故で歯を損傷した場合、外見的な問題だけでなく、噛み合わせや発声など生活の質に直結する重大な問題が起こり得ます。したがって、単に「今の治療費」で終わらせず、「将来的にどのような治療が必要になり得るのか」「その費用はどれほどかかりそうか」をよく考え、かつ歯科医師や弁護士などの専門家に相談することが重要です。
本件のように専門家と協力して資料を精査し、交渉に臨むことで、保険会社の提示金額とは大きく異なる結果を得られる可能性があります。
当事務所では、本件のように将来治療費の見込みや因果関係の認定が問題となる事案も含め、交通事故にまつわる様々な紛争の解決に力を入れております。事故でお困りの際は、ぜひ一度ご相談いただければ幸いです。依頼者の方々が適切な補償を受け、安心して今後の生活を送れるよう尽力してまいります。
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