はじめに
交通事故に巻き込まれたとき、被害者としては、治療や保険手続きなどに目を奪われがちですが、「どの法律が適用され、どのように自分を守ってくれるのか」を理解しておくことも非常に重要です。特に自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」)や民法は、交通事故の補償ルールの根幹をなす法律といえます。
自賠法は、自動車やバイクを所有する人が強制的に加入しなければならない“自賠責保険”のしくみを定めた法律であり、交通事故被害者の基本的な救済ルールを定めています。一方、民法では、事故による損害賠償請求のベースとなる考え方が規定されており、示談交渉や訴訟で適用されることが多いといえます。
本記事では、交通事故の被害者が押さえておきたい法律の基礎知識について、Q&Aを交えながらわかりやすく解説します。「自賠責保険だけで十分なの?」「民法がどこまでカバーしているの?」など、疑問に思われる点を整理していきましょう。
Q&A
Q1:自賠法とは何ですか?
自賠法(自動車損害賠償保障法)は、自動車やバイクを運行する人が加入を義務づけられている「自賠責保険」に関するルールを定めた法律です。交通事故の被害者を最低限度の補償で救済する目的があり、“強制保険”とも呼ばれます。
Q2:自賠責保険だけでは補償が足りない場合はどうなるのですか?
自賠責保険がカバーするのは、あくまで被害者の人身損害に対する最低限の補償のみです(上限あり)。それ以上の賠償が必要となった場合、加害者が加入している任意保険でカバーされることになります。任意保険に未加入の場合は、加害者本人に直接請求することになります。
Q3:民法と交通事故の関係を簡単に教えてください。
民法では「不法行為に基づく損害賠償請求」が規定されており、交通事故もその一種と考えられます。加害者(不法行為を行った者)は被害者に対して損害を賠償しなければならない、という考え方が民法を通じて適用されます。
Q4:示談交渉や裁判でも民法が適用されるのですか?
はい。示談交渉や裁判において、最終的な損害賠償額や過失割合の判断は、民法の「不法行為責任」や「損害賠償」の規定を基に検討されます。自賠法だけでなく、民法の考え方(判例を含む)も大きく影響します。
Q5:自賠責保険の請求方法はどのようになっていますか?
大きく分けて「被害者請求」と「事前認定」の2種類の手続きがあります。
- 被害者請求
被害者自身が書類を整えて直接自賠責保険に請求する方法。 - 事前認定
加害者側の保険会社が手続きを代行し、被害者に保険金を支払う方法。
被害者請求には、書類準備など手間がかかりますが、早期支払いを受けられる可能性があるなどのメリットがあります。
Q6:過失割合についても民法が関係するのでしょうか?
過失相殺という仕組みが民法上の規定にあります。被害者側にも落ち度(過失)が認められる場合、その割合に応じて損害賠償額が減額されるというものです。交通事故の過失割合も、最終的にはこの民法の考え方によって調整されます。
解説
ここからは、交通事故の被害者として最低限押さえておきたい法律の基礎を深掘りしていきます。
自賠法と自賠責保険
自賠責保険の対象と保険金の範囲
自賠責保険は「他人の生命や身体」に対する損害を補償することを目的としており、物損事故は補償対象外です。また、保険金額には上限があり、傷害の場合の限度額は120万円、死亡事故では3000万円、後遺障害の場合は75万円~4000万円(等級により変動)と設定されています。
自賠責保険の請求のタイミング
一般的には、治療が終了または症状固定となった段階で請求手続きを行います。被害者請求を選択する場合は、必要書類(診断書や診療報酬明細書、交通事故証明書など)をそろえる必要があり、手続きが煩雑になる傾向がありますが、受け取れる保険金を把握しやすいメリットがあります。
民法の基礎と交通事故との関係
不法行為責任とは
民法709条では「故意または過失によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負う」と定めています。交通事故は、過失による損害が大きいため、この不法行為責任を追及して加害者に賠償を求めることになります。
損害賠償請求の範囲
交通事故における損害賠償請求は、治療費や休業損害、慰謝料、後遺障害による逸失利益など多岐にわたります。これらは「交通事故」として特別に規定されているのではなく、民法の損害賠償ルールをベースに解釈・適用されます。
過失相殺の考え方
民法722条2項に規定される過失相殺によって、被害者にも落ち度があれば、その割合分だけ賠償金が減額される仕組みがあります。実務では、過去の裁判例や「別冊判例タイムズ」などを参考に、事故態様に応じて過失割合が算定されます。
自賠法と民法の関係
自賠法は、あくまで最低限の補償ルールを定めた“特別法”という位置づけで、そのほかの賠償については、民法の「不法行為」に基づいて請求する形になります。つまり、「自賠責保険の範囲を超える部分は、任意保険や加害者本人に対して民法上の損害賠償請求をする」という流れです。
弁護士に相談するメリット
交通事故に強い弁護士であれば、自賠法と民法、さらには保険実務の知見を踏まえ、被害者の権利を最大限に守る交渉を進められます。ここでは、弁護士に依頼する代表的なメリットを挙げます。
法律を踏まえた適正な損害額の算定
弁護士は、判例や法解釈を前提とした「裁判所基準(弁護士基準)」を用いて損害額を計算します。これにより、保険会社から提示される“任意保険基準”よりも高額な賠償金を得られる可能性が高くなります。
複雑な手続き・書類作成のサポート
自賠責保険の被害者請求や後遺障害等級認定のためには、数多くの書類提出や手続きが必要です。弁護士が関与すれば、手続きの漏れや書類不備を防ぎ、スムーズに保険金を受け取るためのサポートが受けられます。
過失割合の交渉を有利に進められる
保険会社が提示する過失割合に納得がいかない場合、弁護士が過去の判例や事故現場の状況を精査し、より被害者に有利な過失割合を主張することが可能です。
後遺障害認定のサポート
後遺障害等級が異なるだけで、賠償金額に大きな差が生じます。医療機関との連携や専門的な知識を駆使して適正な等級認定を得られるようにサポートするのも、弁護士の重要な役割です。
弁護士費用特約の活用
多くの保険契約には、弁護士費用特約が付帯できる場合があります。これを使えば、弁護士費用を保険会社が支払ってくれるため、実質的な自己負担がなく専門家の力を借りられる可能性があります。加入の有無をぜひ確認してください。
まとめ
交通事故の被害者にとって、「自賠法」や「民法」の知識を基礎的に押さえておくことは、自分の権利を守るうえで非常に重要です。自賠責保険はあくまで最低限の補償であり、被害者の損害をすべてカバーできるとは限りません。自賠法で補償できない部分は、最終的に民法の不法行為ルールや加害者側の任意保険に基づく賠償請求によってカバーされるのです。
- 自賠法
強制保険としての自賠責保険を定める法律 - 民法
交通事故を含む不法行為全般の損害賠償責任の根幹をなす法律
示談交渉や裁判で主に参照されるのは民法の考え方です。過失割合の問題も含め、「自分の落ち度はどれくらいか」「どれくらいの損害賠償が請求できるのか」を正確に把握するために、法律の基礎理解は欠かせません。もしも保険会社との示談交渉に不安がある場合、弁護士に相談することで、適正な賠償を得られる可能性が高まります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、交通事故に関わる法律問題に精通した弁護士が、被害者の方の状況に合わせて最善のサポートを提供いたします。自賠法・民法の基礎から、後遺障害の認定手続き、示談交渉まで安心してお任せください。
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