はじめに
交通事故における損害賠償請求では、「休業損害」や「逸失利益」をどのように計算するかが、示談交渉や裁判での大きな争点になります。会社員であれば給与明細や源泉徴収票を基に計算しやすいものの、主婦(家事労働者)やアルバイト、自営業の場合は、経済価値の把握が難しいという特徴があり、保険会社との見解が対立しがちです。
本稿では、主婦・アルバイト・自営業者それぞれの立場で、休業損害や逸失利益をどのように評価し、保険会社とどのように交渉していくべきかについて解説します。自分の収入形態に合った適切な算定基準を理解し、不当に低い賠償額で示談させられないよう備えましょう。
Q&A
Q1:休業損害と逸失利益はどう違うのですか?
休業損害は、事故でケガを負って治療や通院のために仕事を休んだ期間の収入減を補償するものです。逸失利益は、後遺障害が残り、将来にわたって収入が減少する部分を補う損害項目です。
Q2:主婦や主夫の場合、収入がないのに休業損害や逸失利益を請求できるのですか?
できます。家事労働にも経済的価値があると裁判例で認められており、「女性の平均賃金(賃金センサス)」を基準に算定するケースが一般的です。
Q3:アルバイトやパートでもフルタイムでないと、休業損害は小さくなってしまうのでしょうか?
アルバイトやパートであっても、実際の収入(時給×勤務時間など)に基づき算出します。一定期間の給与明細やシフト実績を証拠として、保険会社に示すことで適正な額を主張できます。
Q4:自営業の場合、確定申告書が売上と利益を示す資料になりますか?
はい、確定申告書が主な根拠となります。ただし、申告所得が低い場合でも、他の資料(帳簿や取引実績、家計への貢献など)を示して実質的な収入を立証する余地があります。
Q5:後遺障害が残った場合、どのように逸失利益を計算するのですか?
被害者の基礎収入 × 労働能力喪失率 × 期間(就労可能年数) × ライプニッツ係数で求めるのが典型的な計算式です。主婦の場合は家事労働の価値を評価し、逸失利益を算出します。
Q6:保険会社から「あなたはパートで週3日しか働いていないから逸失利益は少額」と言われましたが、どうすればいいでしょう?
実際に得ていた収入や勤務実態、将来勤務日数を増やす可能性などを主張します。弁護士に相談し、過去判例を踏まえた交渉戦略を立てることもご検討ください。
解説
主婦(家事従事者)の休業損害・逸失利益
- 家事労働の経済的価値
- 主婦(家事従事者)の事故による休業損害は、「家事ができなくなった期間の家事労働の価値」として認められる。
- 賃金センサスの「女性学歴計の平均賃金」(あるいは年齢別の平均賃金)を基礎収入に使うことが多い。
- 後遺障害が残った場合
- 労働能力喪失率に準じて計算し、逸失利益が認められる。
- 高齢主婦でも家事労働が続くと考えられれば、一定期間までは逸失利益を認める傾向。
アルバイト・パート
- 実際の収入をもとに算定
- 事故前の給与明細やシフト実績を確認し、平均月収を基礎収入とする。
- 勤務日数が変動する場合は過去数ヶ月~1年の平均を用いることが多い。
- 将来の見込み
- 若年層で「フルタイムに切り替える予定だった」などの事情があれば、弁護士が証拠を揃え主張し、将来の収入増を考慮させる余地がある。
自営業・個人事業主
- 確定申告書が基本
申告所得をベースに休業損害・逸失利益を計算。ただし、実収入が申告よりも高い場合(過少申告など)は立証が難航。 - 帳簿・取引先証言・銀行口座記録
収入の実態を示すために、弁護士が補強証拠を集め、事業を支えていた被害者の役割を強調する。 - 事業継続の有無
被害者の死後に家族が事業を引き継ぎ、売上が変わっていない場合、逸失利益がないと保険会社から反論される可能性あり。実際には被害者が担っていた大きな労働や顧客ネットワークがあったことを立証する必要がある(死亡事故の場合)。
弁護士に相談するメリット
- 正確な基礎収入の算出
主婦やアルバイト、自営業など、複雑な収入形態でも裁判例や実務経験を踏まえて最適な算定方法を検討する。 - 将来の昇給・事業拡大の可能性を主張
若年層や事業拡大中の個人事業主など、保険会社が「不確実」として低評価する部分を根拠ある資料でサポート。 - 後遺障害認定サポート
主婦やパートが後遺障害を負えば、家事労働や通勤労働への支障が直接影響し、逸失利益が大きくなる場合がある。 - 示談交渉・裁判
保険会社が認めようとしない将来の可能性や過去の実績を、弁護士が法的根拠や判例を引き合いに交渉。拒否されれば裁判で判決を勝ち取る戦略も。 - 費用特約で経済的負担を軽減
自動車保険に弁護士費用特約があれば、費用を気にせず相談・依頼が可能。
まとめ
主婦・アルバイト・自営業者が交通事故でケガを負い、休業損害や逸失利益を請求する際は、会社員とは異なる立証ポイントが多数あります。誤った計算や証拠不足で保険会社に低額での示談を迫られることのないよう、以下を意識しておきましょう。
- 主婦:家事労働の価値を賃金センサスの平均賃金で評価
- アルバイト・パート:勤務実態やシフトを基にして実収入を主張。将来フルタイムの可能性も考慮
- 自営業:確定申告書を主としつつ、事業実態や拡大可能性を補強証拠で立証
- 後遺障害:認定があるか否かで大幅に金額が変わるため、適正な手続きを踏む
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、多様な働き方をする被害者の損害を的確に評価し、保険会社との交渉・裁判を通じて適正な賠償を追求しています。もし「自分の休業損害や逸失利益が正しく計算されているか不安」と感じる場合は、ぜひご相談ください。
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