はじめに
交通事故が原因で頭部外傷を負い、記憶・注意・遂行機能障害などの高次脳機能障害を発症した場合、示談交渉や裁判で大きな焦点となるのが後遺障害等級の認定です。後遺障害等級が高く認定されれば、それだけ後遺障害慰謝料や逸失利益が増大し、数百万円~数千万円以上の示談金につながる可能性があります。一方、外見上の怪我が目立たず、MRI画像に異常が明確に映らない場合など、適正な等級認定が得られず過小評価されるリスクも高いのが現実です。
本稿では、高次脳機能障害の後遺障害等級を確保するうえでのポイントとして、MRIやCT画像をはじめとする医師の所見や神経心理学的検査データの重要性を解説します。実際にどのように診断書を作成し、事故と脳機能障害との因果関係を立証していくか、弁護士や家族が押さえるべきステップも示します。見落とされがちな検査や手続きに注意し、適正な後遺障害認定を得るための参考となれば幸いです。
Q&A
Q1:高次脳機能障害で後遺障害等級を申請する場合、やはりMRI画像に異常が映っていないと難しいのでしょうか?
MRI等に脳挫傷や出血痕が映らない場合でも、神経心理学的検査や日常生活での顕著な支障を示す証拠があれば認定される可能性もゼロではありません。ただし、画像所見があった方が保険会社や裁判所も納得しやすいのは事実です。
Q2:どんな検査が後遺障害認定に影響するのですか?
神経心理学的検査(WAIS-Ⅳ、WMS-R、Trail Making Testなど)が代表的です。これらの検査結果とMRI所見、医師の診断書をあわせて「脳機能に客観的な障害がある」と立証します。さらに、日常生活状況(家族の証言、介護日誌など)も重要です。
Q3:医師の診断書だけでなく、作業療法士や言語聴覚士の記録も役に立ちますか?
もちろん役に立ちます。リハビリ記録や専門職の所見は、実際の機能障害やリハビリの進捗を詳細に示す資料となり、後遺障害等級認定時にも活用できます。事故後のリハビリでどんな問題が出たか、どんな訓練をしているかが具体的に分かります。
Q4:等級が認められる基準は1〜9級など幅がありますが、具体的にどう決まるのでしょうか?
自賠責保険の後遺障害等級表に基づき、「高次脳機能障害により、労働能力がどの程度喪失されているか」で判断します。たとえば、介護を要する重度なら1〜2級、相当程度社会復帰が困難なら3〜5級、一部制限であれば7〜9級など、医師の診断と検査結果を総合し等級を決めます。
Q5:病院で「外傷性の脳損傷ではない」と言われた場合でも、事故前後の変化が大きいなら、後遺障害は取れるのでしょうか?
難しいケースですが、事故前の状態と事故後の変化を詳細に比較(職場や家族の証言、検査結果)できれば、因果関係を立証する余地があります。MRIで損傷が見つからない場合も、専門医による繰り返しの検査や行動観察などを通じて、交通事故由来の高次脳機能障害と認定される可能性はあります。
Q6:保険会社が「MRIに異常なしだから認めない」と頑なに主張してきた場合、どう対抗すれば?
弁護士が神経心理学検査の結果や家族・職場の実態証言を含めて、医師の意見書をまとめ、因果関係と機能障害の実在を主張します。保険会社が柔軟に認めない場合は、後遺障害等級申請(事前認定or被害者請求)や異議申立、最終的に裁判も視野に主張する必要があります。
解説
MRI・CT画像の役割
- 画像所見で脳損傷を可視化
- 事故直後のMRI・CTで脳挫傷や血腫が確認されれば、高次脳機能障害を立証しやすい。
- びまん性軸索損傷(DAI)のように画像に映らない微細損傷もあるが、近年は拡散強調画像(DTI)などの高性能MRIで発見可能なケースが増えてきた。
- 慢性期の検査
- 急性期で異常が見つからなくても、数ヶ月後のMRI再検査で変性や委縮が確認できる場合がある。
- 「画像なし=障害なし」とはならず、医師の判断で追加検査を受けることが重要。
- 画像所見の限界
- MRIやCTで異常所見がなくても、高次脳機能障害が存在する可能性はある。その場合検査データや生活上の実態で補強する必要がある。
医師の所見・神経心理学的検査の重要性
- 神経心理学的検査
- WAIS-Ⅳ(知能検査)、WMS-R(記憶検査)、Trail Making Test、Stroopテストなど複数の検査を組み合わせ、認知機能の具体的低下を定量化する。
- 結果は数値や偏差値で示され、後遺障害認定の根拠となる。
- 医師の診断書(後遺障害診断書)
- 高次脳機能障害と診断した医師が、どのような症状があり、日常生活にどの程度支障があるかを詳細に記載。
- 弁護士が医師と連携し、不足事項を補う形で的確な診断書を作成してもらうのが望ましい。
- 家族・周囲の証言やリハビリ記録
- 家族が書く介護日誌、職場での業務評価、リハビリテーション記録(作業療法士・言語聴覚士の所見)も貴重な証拠。
- 「事故前は普通にできていたことが今はできない」といった具体例が後遺障害認定に有力。
後遺障害等級認定の流れ
- 症状固定
- リハビリや治療を継続したうえで、医師が「これ以上大きな改善は見込めない」と判断(症状固定)。
- 急いで症状固定されると適正な等級を得られないリスクが高いので、医師とよく相談。
- 後遺障害診断書の作成
- 医師が認知機能障害の所見を明確に書き、検査データを添付。
- 弁護士がアドバイスして、必要な内容(事故状況、MRI所見、検査結果、日常支障)を網羅させる。
- 損害保険料率算出機構への申請
- 自賠責保険(事前認定 or 被害者請求)にて後遺障害審査を行い、等級を決定。
- 認定結果に不服がある場合、異議申立や裁判で再度争うこともできる。
弁護士に相談するメリット
- 医療ネットワークの活用
高次脳機能障害に詳しい専門医やリハビリ施設を紹介してもらうことで、検査や診断書作成がスムーズに進む。 - 後遺障害認定の戦略
- MRI所見が乏しくても、神経心理学的検査や生活実態証言で認知障害を立証するノウハウがある。
- 不当な低評価に対して異議申立で再審査を求めるなど、複数の手段がある。
- 高額賠償を追求
認定された等級に応じて、後遺障害慰謝料や介護費用、逸失利益を最大化する交渉が可能。 - 保険会社の早期打ち切りを防ぐ
症状固定前に「これ以上の治療は不要」と保険会社が打ち切りを迫ってきても、弁護士が医学的根拠を示し、リハビリ継続を交渉。 - 弁護士費用特約
高次脳機能障害は長期・高額化する可能性が高いが、特約があれば費用リスクなしで安心して依頼できる。
まとめ
高次脳機能障害の後遺障害等級を正しく認定してもらうには、
- MRIなど画像所見
脳挫傷や出血などが確認できれば立証しやすいが、映らないケースも少なくない - 医師の所見・神経心理学的検査
WAIS-Ⅳ、WMS-Rなどの結果と日常生活支障を併せて立証 - 後遺障害診断書の質
弁護士と連携して、事故との因果関係と具体的な認知障害を的確に記載 - 異議申立・裁判対応
保険会社が低い等級を認定しがちな場合、異議申立や裁判で再度争う
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、高次脳機能障害の後遺障害申請に豊富な経験があり、専門医や検査機関との連携や裁判所基準での賠償交渉を通じて、被害者が適正評価と高額な賠償を得られるよう尽力いたします。脳外傷の可能性が少しでもある場合は、早期にご相談いただき、適切な検査・書類整備を進めましょう。
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