はじめに
交通事故の被害に遭った際、怪我の治療と同じくらい重要なのが「事故現場での証拠保全」です。
事故直後、相手方は「私が悪かったです、すべて弁償します」と謝罪していたのに、数日経って保険会社を通して連絡が来ると、「自分は青信号だった」「相手が急に飛び出してきた」と、主張を180度覆してくるケースは決して珍しくありません。
このような「言った言わない」の水掛け論になったとき、あなたの正当性を証明し、守ってくれるのは、「客観的な証拠」だけです。
証拠が不足していると、本来自分に過失がない事故(0対10)であっても、相手の嘘の主張が通り、不当な過失割合を押し付けられて賠償金が減額されたり、最悪の場合は加害者扱いされたりする理不尽な結果になりかねません。
しかし、事故直後のパニック状態の中で、何をどう記録すればよいのか冷静に判断するのは困難です。
そこで今回は、交通事故の解決実績豊富な弁護士法人長瀬総合法律事務所が、「事故直後にこれだけは残しておくべき」という証拠保全リストを作成しました。ドライブレコーダーの扱いや、スマートフォンのカメラを使った効果的な撮影方法など、被害者が現場で取るべき具体的なアクションを解説します。
証拠保全に関するQ&A
まずは、事故現場での証拠集めに関して、よくある質問にお答えします。
Q1:自分の車にドライブレコーダーがついていません。スマホの写真だけで対抗できますか?
はい、写真は強力な証拠になります。ただし「撮り方」にコツがあります。
ドライブレコーダーの映像は動かぬ証拠として最強ですが、写真であっても、車の壊れ方、停止位置、路面の痕跡などから、衝突時の速度や進入角度を工学的に解析・推認することが可能です。
重要なのは「傷のアップ」だけでなく、「道路全体の状況(引きの写真)」を撮ることです。全体の状況がわかれば、警察の実況見分調書と照らし合わせて相手の矛盾を突くことができます。
Q2:相手がドライブレコーダーの映像を見せてくれません。どうすればいいですか?
無理に見ようとせず、弁護士や警察を通じて保全を求めましょう。
相手がその場で映像を見せるのを拒否したり、SDカードを抜いて隠したりする場合、無理やり奪うことはできません(トラブルの原因になります)。
まずは「相手の車にドラレコがついていること」自体を写真に撮り、記録に残してください。その上で、警察に「相手のドラレコを確認してほしい」と要望するか、後日、弁護士を通じて「証拠保全」の手続きや開示請求を行うことで、映像を入手できる可能性があります。
Q3:目撃者がいたのですが、声をかける前に立ち去ってしまいました。もう手遅れでしょうか?
まだ諦める必要はありません。周辺の防犯カメラや警察の捜査に期待しましょう。
事故現場付近のコンビニ、ガソリンスタンド、マンションなどの防犯カメラに事故の瞬間が映っている可能性があります。個人で頼んでも見せてもらえないことが多いですが、警察や弁護士からの照会であれば開示されることがあります。また、警察が目撃者を探す看板を設置することもあります。できるだけ早く弁護士に相談し、映像が上書きされる前に確保に動くことが重要です。
解説:過失割合を左右する「証拠保全」完全リスト
ここからは、事故現場で被害者が確保すべき証拠をカテゴリー別に解説します。いざという時に見返せるよう、チェックリストとして活用してください。
リスト1:【最重要】スマートフォンのカメラによる撮影
今や誰もが持っているスマートフォンは、最強の記録ツールです。写真は「枚数制限なし」と考え、できるだけ多く、様々な角度から撮影してください。
① 車両の撮影(多角的アングルで)
- 4方向からの撮影
自分の車と相手の車、それぞれの「前」「後」「右」「左」の4方向から全体像を撮ります。 - 損傷箇所の撮影
衝突した部分の「アップ」と、その周辺がわかる「少し引いた写真」の両方を撮ります。傷の深さや方向は、どちらが動いていたかを示す重要な手がかりになります。 - 停止位置の撮影
事故後、車を動かす前に、2台の車がどのような位置関係で止まっているかを撮影します(※ただし、交通の危険がある場合は安全確保を最優先し、移動後の撮影でも構いません。その場合は路面のタイヤ痕などを重点的に撮ります)。
② 事故現場・路面状況の撮影
- 遠景(引きの写真)
事故現場の道路全体が見渡せる写真を撮ります。信号機、一時停止標識、横断歩道などが写り込むようにしてください。 - 痕跡
- ブレーキ痕(タイヤの黒い跡): ブレーキをかけた地点や速度の推定に役立ちます。
- 散乱物: 車の破片やガラス片が落ちている場所は、衝突地点(衝突箇所)を特定する材料になります。
- スリップ痕・油染み: 路面状況の記録になります。
③ 相手方の情報
- ナンバープレート: ナンバーだけでなく、車両全体が写るように。
- 車検証・運転免許証: 相手に見せてもらい、文字が読めるよう鮮明に撮影させてもらいます。
- 相手の車両の装備: ドライブレコーダーの有無、タイヤの磨耗状況(スリップ事故の場合)など。
リスト2:ドライブレコーダー(映像)の確保
ドライブレコーダーは「見たまま」を記録する決定的な証拠ですが、取り扱いを間違えると「肝心な部分が消えてしまう」という致命的なミスが起こり得ます。
① SDカードの「上書き」を防止する
これが最も重要です。多くのドラレコは、容量がいっぱいになると古いデータから順に上書き消去していきます。また、衝撃感知で別フォルダに保存される機種でも、その後の走行でデータが消えるリスクがあります。
- アクション:
- 事故直後に電源を切る(エンジンを切る、またはケーブルを抜く)。
- 可能であれば、その場でSDカードを抜き取り、大切に保管する。
- 帰宅後すぐにパソコン等にデータをバックアップする。
② 相手方のドラレコの確認
前述の通り、相手の車にドラレコがついているかを確認し、カメラ本体を写真に撮っておきます。「ついているはずだ」という証拠があれば、後で相手が「ついていない」と嘘をついても追及できます。
リスト3:目撃者と音声の確保
「第三者の声」は、当事者同士の主張が対立した際に、裁判官や保険会社が最も信用する証拠の一つです。
① 目撃者の確保
- 通行人や後続車の運転手などが事故を見ていた場合、その場で声をかけます。
- 「警察が来たら証言をお願いできませんか?」と頼むのがベストですが、急いでいる場合は「お名前と電話番号」だけでも教えてもらいましょう。「後で揉めた場合に連絡させていただくかもしれません」と伝えます。
② 会話の録音(ボイスレコーダー)
- スマホのボイスレコーダー機能をオンにして、現場でのやり取りを録音しておきます。
- 事故直後の相手方は、気が動転して本音を漏らすことが多いです。「すみません、スマホを見ていました」「赤信号を見落としました」といった謝罪や過失を認める発言が録音できていれば、後で主張を変えられた際の対抗手段になります。
リスト4:警察対応と実況見分
警察が行う捜査への協力も、証拠保全の一環です。
① 人身事故としての届出
- 怪我がある場合は、診断書を提出して「人身事故」として処理してもらいます。物損事故のままでは、詳細な事故状況を記した「実況見分調書」が作成されず、過失割合の立証が難しくなります。
② 実況見分での主張
- 警察官が作成する実況見分調書は、刑事記録として非常に高い信用性を持ちます。
- 警察官に「ここでお互いがぶつかったということでいいですか?」と聞かれた際、自分の記憶と違う場合は妥協せずに「違います」とはっきり伝えてください。一度作成された調書を後から覆すのは困難です。
証拠保全における弁護士の役割とメリット
どれだけ注意していても、自分一人では集めきれない証拠があります。また、集めた証拠が法的にどう評価されるかを知るには専門知識が必要です。
1. 「弁護士会照会」による証拠収集
個人の力では入手できない証拠でも、弁護士であれば職権に基づく「弁護士会照会」という制度を利用して収集できる可能性があります。
- 防犯カメラ映像: 店舗や管理会社に対して開示を求める。
- 信号サイクル表: 警察署に対して、事故当時の信号機の点灯サイクル(何秒で赤になるか等)を照会する。
- 119番通報記録: 通報時刻や通報内容の記録を取り寄せる。
2. 証拠の分析と過失割合の修正
入手したドライブレコーダー映像や写真を詳細に分析し、過去の裁判例(判例タイムズ等)と照らし合わせて、保険会社が提示してきた過失割合が適正かどうかを判断します。
例えば、「相手は10:90と言っているが、映像から相手の速度超過が読み取れるため、0:100を主張できる」といった具体的な戦略を立てることができます。
3. ドライブレコーダーがない場合の「工学鑑定」
映像がない場合でも、車の損傷状況や路面の痕跡から、物理法則に基づいて事故状況を再現する「工学鑑定」を専門機関に依頼することも可能です。弁護士はこうした専門家とのネットワークを持っており、必要に応じて鑑定を活用し、真実を明らかにします。
まとめ
交通事故の現場は混乱していますが、その一瞬の対応が、その後の補償内容を大きく左右します。
【これだけは忘れないでください】
- スマホで撮る: 車の4方向、損傷アップ、道路の遠景、相手の免許証・車検証。
- ドラレコを守る: すぐに電源を切り、SDカードを抜いて確保する。
- 人を確保する: 目撃者の連絡先を聞く、会話を録音する。
もし、「証拠が足りないかもしれない」「相手の言い分が強気で不安だ」と感じたら、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。
時間が経過すればするほど、防犯カメラの映像は消え、目撃者の記憶は薄れていきます。事故直後から弁護士が介入することで、消えゆく証拠を迅速に保全し、あなたの正当な権利を守るための活動が可能になります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、交通事故直後の証拠保全のアドバイスから、保険会社との交渉まで、被害者の方をサポートいたします。
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