はじめに
示談交渉がまとまり、加害者(または保険会社)から「示談書(和解書)」が送られてきたとき、被害者は「これでやっと終わる」と安堵することでしょう。しかし、示談書にサインする前の最終チェックは非常に重要です。示談書には、今後の追加請求を制限するような条項が含まれるのが一般的で、一度サインしてしまうと後戻りができなくなる可能性が高いからです。
「示談書にサインしてから後遺障害が見つかった」「支払方法の取り決めが曖昧だった」などのトラブルを避けるために、示談書を受け取った段階でどこを確認すべきか、どんなポイントに気をつけるべきかを本稿で解説します。しっかり内容を理解したうえで、慎重にサインすることが大切です。
Q&A
Q1:示談書って何のための書類ですか?
交通事故の損害賠償問題を「当事者同士の合意」によって解決する際、その合意内容を明文化して証拠化するための書類です。示談書が成立すると、基本的に「本件事故に関する賠償はすべて決着した」ことになります。
Q2:示談書をサインした後に、追加請求が必要になった場合はどうなりますか?
示談書に「清算条項」が含まれていると、追加請求は原則としてできなくなります。後遺障害が判明したなどの特殊な事情がない限り、一度サインしたら覆すのは難しいのが実情です。
Q3:示談書のどこをチェックすれば良いのでしょうか?
支払金額、支払期日、支払方法、清算条項の有無、賠償範囲(治療費、慰謝料、逸失利益など)が明確かどうかが主なチェックポイントです。文言があいまいな場合は修正を求めましょう。
Q4:保険会社が作った示談書でも、こちら側から修正を求められますか?
可能です。示談はあくまで当事者の合意に基づく手続きなので、一方的に示談書の内容を押し付けられるわけではありません。納得がいかない条項があれば、遠慮せずに修正を検討してください。
Q5:示談書に専門用語が多くて理解できません…。
意味がわからないままサインするのは大変危険です。弁護士や信頼できる専門家に依頼し、内容を確認してもらうことをおすすめします。長文の法律用語が羅列されている場合ほど要注意です。
Q6:示談書を勝手に書き換えるのはアリですか?
自分だけで書き換えてサインするのは避けましょう。相手の承諾が得られずに一方的に書き換えると、トラブルの元になります。修正が必要な場合は、相手方や弁護士を通じて書面を再作成するのが通常の手順です。
解説
示談書の主要な項目
- 当事者の氏名・住所
間違いがないかを必ず確認します。被害者・加害者(または保険会社)の名前と連絡先が正確に記載されているか要チェック。 - 支払金額
示談金の内訳が明確にされているか。治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害逸失利益など、それぞれの項目が合算されているか確認します。 - 支払期日・支払方法
いつ、どのように支払われるのか。振込先の口座情報や期限が明示されているかをチェックします。 - 清算条項(求償権放棄条項)
「本件事故については、今後一切の請求を行わない」旨が記載されることが一般的。ここでどこまでの範囲を清算するのかをよく確認する必要があります。 - 特記事項(免責・和解の効力など)
翻訳調の法律用語が並ぶ場合が多いですが、和解の効力がどこまで及ぶかを示すものです。追加賠償を請求できない可能性が高いので慎重に読むべき部分です。
示談書サイン前の注意点
後遺障害の見通しはどうか
示談書にサインすると、後から「やっぱり後遺症があった」と判明しても追加請求が困難になります。症状固定後に後遺障害の認定手続きを進めるかどうか、医師とよく相談しましょう。
保険会社以外からの請求はないか
車の修理費やレンタカー費用など対物面での請求、また別の当事者が存在する場合など、まだトラブルが残っているケースはないか確認しておきます。
口約束で済ませない
示談金以外にも、たとえば「事故車両の売却費を負担する」など口頭で合意していても、示談書に記載されていなければ認められない可能性が高いです。必ず書面に盛り込みましょう。
示談書にありがちなトラブル事例
- 清算条項の範囲が広すぎる
「本件事故に関する一切の債権債務を放棄する」など、大雑把な文言になっている。結果的に、後から問題が発覚しても何も請求できなくなる恐れがある。 - 分割払いの条件が曖昧
分割払いを受け入れたものの、支払期日が曖昧、遅延損害金の設定がなく支払いが滞ってしまうケース。 - 支払期日がやたらと先
示談金の支払期日が数ヶ月先や年単位で設定されていることも。被害者が同意した後、実際に支払われずトラブルとなる場合あり。
弁護士に相談するメリット
示談書のリーガルチェック
弁護士は示談書における法的リスクを的確に把握できるため、後々の追加請求や支払トラブルを防ぐためのアドバイスを行えます。
不利な条項の修正交渉
示談書の文言が被害者に著しく不利な場合でも、弁護士が間に入ることで再交渉が可能です。一方的に保険会社の提示する書面を受け入れる必要はありません。
後遺障害手続きとの連携
弁護士は、後遺障害認定に関する手続きや異議申立のサポートも行うため、示談締結のタイミングを適切にコントロールできます。誤って症状固定前に示談してしまうリスクを避けられます。
トラブル解決の代行
示談後の支払いに関するトラブルが起きた場合も、弁護士が手続きや強制執行などを含めて対処できるため、被害者の不安を解消できます。
弁護士費用特約があれば負担ゼロの場合も
任意保険の弁護士費用特約を活用すれば、弁護士費用を保険会社が負担するため、実質的に自己負担なく専門家の力を借りられます。
まとめ
示談書は、一度サインすると取り返しがつかないリスクが非常に高い重要書類です。スムーズに事故問題を解決できる半面、内容をよく理解せずに合意してしまうと、思わぬ不利益を被ることも少なくありません。以下を意識して慎重にチェックしましょう。
- 賠償項目や金額が正確に記載されているか
- 支払期日・支払方法・分割回数などが明確か
- 「清算条項」の範囲が不当に広くないか
- 後遺障害や今後発生するかもしれない問題について、対応策があるか
不明点や不安がある場合は、決して急がず、弁護士や専門家に相談してからサインしても遅くありません。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、示談書のチェックから交渉代行までトータルでサポートいたします。安全策をとって、納得のいく解決を目指しましょう。
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