はじめに
交通事故でケガを負った場合、治療が長引き、十分に回復しないまま症状が残ってしまうケースがあります。そのような症状を「後遺障害」として認定してもらうと、示談交渉において「後遺障害等級」に応じた慰謝料や逸失利益などの賠償が受けられる可能性が高まります。
しかし、後遺障害等級の認定手続きには、「症状固定」「医師による診断書作成」「後遺障害診断書の提出」「損害保険料率算出機構への申請」など、多くのステップがあり、複雑です。適切な手順を踏まなかったり必要な書類が不十分だったりすると、妥当な等級が認定されず、結果的に賠償額に大きな差が出ることもあります。
本稿では、後遺障害等級を認定してもらうまでの流れを、Q&Aを交えながら解説します。認定手続きのポイントや注意点を押さえて、正当な補償を受けるための準備を整えましょう。
Q&A
Q1:後遺障害の認定はいつ行うのですか?
交通事故のケガが「症状固定」または「治癒」した段階で、後遺症が残っている場合に手続きを行います。症状固定とは、それ以上治療を続けても大きな回復が見込めない状態のことです。
Q2:どのような書類が必要ですか?
後遺障害診断書(主治医が作成)、レントゲン写真やMRIなどの検査画像、通院記録や診療報酬明細書などの医療資料が基本になります。また、事故の状況を示す書類(交通事故証明書など)も必要です。
Q3:後遺障害診断書と医師の診断書は同じものですか?
厳密には異なります。医師の診断書は、ケガの状態や治療内容をまとめたものですが、後遺障害診断書は「後遺症が残ったことを前提」に、その症状や部位、程度などを詳しく記載した書類です。
Q4:後遺障害の等級認定は誰が行うのですか?
自賠責保険では、損害保険料率算出機構(通称:損保料率機構)が審査を行い、等級を認定します。任意保険でも、最終的には自賠責基準をベースに判断されます。
Q5:等級が認定されるまで、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?
書類が整ってから審査が完了するまでは、概ね数ヶ月程度が目安とされています。ただし、書類に不備があったり、後遺障害の認定が難しいケースだと、さらに時間がかかる場合もあります。
Q6:後遺障害が認定されなかった場合はどうすればいいですか?
異議申立の手続きがあります。追加の医証(画像検査結果、専門医の意見書など)を提出することで再審査を求められます。納得いかない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
解説
後遺障害等級認定の全体的な流れ
- 症状固定
- 医師が「これ以上治療を続けても大幅な回復が見込めない」と判断した段階。
- 症状固定後は、リハビリや治療を継続する場合でも新たな治療費は原則事故の損害として計上されない(例外あり)。
- 後遺障害診断書の作成
- 症状固定後、主治医に「後遺障害診断書」の作成を依頼。
- 痛みやしびれなどの自覚症状を正確に伝えるとともに、医師の見解を詳しく記載してもらう。
- 損保料率機構への申請(事前認定or被害者請求)
- 事前認定方式:加害者側の保険会社が書類を取りまとめて損保料率機構に申請。
- 被害者請求方式:被害者自身が必要書類を整え、損保料率機構に直接申請する。
- いずれの方法でも、書類に不備があれば審査がスムーズに進まないことがある。
- 後遺障害等級の審査・認定
- 損保料率機構が医療照会や書類審査を行い、等級(1級~14級)を決定。
- 等級に応じて後遺障害慰謝料や逸失利益が計算される。
- 認定結果通知・不服がある場合は異議申立
- 認定結果に納得いかない場合、追加資料を用意して再審査を求めることができる。
- それでも不認定となった場合は、裁判で争う選択肢もある。
後遺障害診断書のポイント
- 症状を具体的に記載
「痛みがある」「しびれがある」だけでなく、どの部位にどの程度の頻度・強度で症状が出るか、日常生活にどのような支障があるかを詳細に。 - 可動域制限の測定
四肢や首・腰などに可動域制限がある場合、角度や測定方法を明確に記載。 - 医学的根拠の明示
レントゲン、CT、MRIなどの画像検査で確認できる異常や、神経学的所見を明確に示すと信用性が高まる。
事前認定と被害者請求のちがい
- 事前認定方式
- メリット:加害者側の保険会社が手続きを行ってくれるため、被害者の手間が少ない。
- デメリット:提出書類の中身を被害者が十分に把握できず、不利な結果が出ても気づきにくい。
- 被害者請求方式
- メリット:自分で直接申請するため、提出書類をすべて把握し、必要に応じて補足・修正ができる。保険金を先に受け取れる可能性もある。
- デメリット:書類準備が煩雑で、医証の取得や記入ミスがあると手続きに時間がかかる。
弁護士に相談するメリット
- 医証の充実化
医療機関への紹介や専門医との連携などをサポートし、後遺障害診断書の内容を充実させる。 - 手続きの漏れやミスを防止
必要書類のリストアップ、書類の書き方、チェックポイントの提示など、弁護士が全面的にサポート。 - 異議申立や裁判対応
認定結果に不服がある場合、弁護士が追加資料や専門家の意見を揃えて再審査を申し立てる。結果次第では、裁判で争うことも可能。 - 示談交渉での有利な展開
適切な等級が認定されれば、その後の示談交渉で後遺障害慰謝料や逸失利益を高水準で獲得する可能性が高まる。 - 弁護士費用特約の活用
任意保険に弁護士費用特約が付帯されていれば、弁護士費用を保険会社が負担してくれる場合が多い。
まとめ
後遺障害等級の認定は、交通事故の損害賠償額を左右する最も重要なポイントの一つです。適切な手続きを踏めば正当な賠償を受けやすくなりますが、逆に書類や手続きが不備だと、本来認められるはずの等級が認定されない可能性もあります。
- 症状固定のタイミング:主治医と相談してベストな時期を判断
- 後遺障害診断書の作成:症状を具体的・丁寧に記載してもらう
- 事前認定or被害者請求:メリット・デメリットを知り、自分に合った方法を選択
- 異議申立:納得いかない場合は追加資料を用意して再審査を求める
もし手続きが煩雑で不安を感じたり、保険会社とのやり取りに負担を感じるようであれば、ぜひ弁護士への相談を検討してください。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、後遺障害認定や示談交渉まで、ワンストップでサポートいたします。
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