後遺障害の逸失利益計算の基礎(就労可能年数、労働能力喪失率など)

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はじめに

交通事故によって後遺障害等級が認定されると、被害者の方は慰謝料だけでなく、「逸失利益」を請求できる可能性があります。逸失利益とは、後遺障害により働く能力が下がり、将来的に得られなくなってしまう収入を補償するための損害項目であり、示談交渉や裁判で大きな金額となることが多い重要なポイントです。

しかし、逸失利益の計算には、「被害者の年齢や年収、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率、そして就労可能年数」など、多くの要素が絡み合います。そのため、正確に計算するには専門的な知識や裁判所の基準を理解しておく必要があります。

本稿では、後遺障害がある場合の逸失利益計算の基礎を、Q&Aを交えながら分かりやすく解説します。もし自分や家族が後遺障害を負ってしまった場合に備えて、適切な補償を受けるための考え方を学んでいただければ幸いです。

Q&A

Q1:そもそも「逸失利益」とは何ですか?

逸失利益とは、事故がなければ将来得られたはずの収入(給与や事業所得など)のうち、後遺障害による労働能力の低下分を補償するものです。後遺障害が原因で就労や収入アップが制限されるため、その喪失分を金銭的に補う考え方といえます。

Q2:労働能力喪失率ってどうやって決まるのでしょう?

後遺障害等級ごとに、ある程度の目安となる「労働能力喪失率」が定められています(例:14級は5%、12級は14%など)。これを基本に、被害者の職業や具体的な障害内容に応じて増減が検討される場合もあります。

Q3:就労可能年数とは何ですか?

被害者が将来どのくらい働ける(働くことが想定される)年数を指します。一般的には、男性で67歳、女性で67歳までとするケースが多いですが、職種や被害者の健康状態などによっても変わることがあります。

Q4:主婦やパートタイマーでも逸失利益は認められますか?

認められます。主婦の場合は「家事労働」が経済的価値を持つとされ、専業主婦でも「女子労働者の平均賃金」を基準として算定するのが裁判例上の一般的傾向です。パートやアルバイト、自営業の場合も、実際の収入実態などを考慮して算定します。

Q5:事故時点で無職だった場合はどうなるのでしょう?

これから就職する予定があったり、過去の勤務実績や資格などから将来の収入が推定できる場合には、一定の逸失利益が認められる可能性があります。ケースバイケースで慎重に判断されます。

Q6:逸失利益の計算式はどのような形になるのですか?

よく用いられるのは下記のような式です。

逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

被害者の年齢や職業によって調整が行われる場合があります。

解説

逸失利益の算定式

  1. 基礎収入
    • 事故前の年収や給与明細、確定申告書などをベースに算定。
    • 会社員の場合は源泉徴収票、自営業者は確定申告書が中心。
    • パート・アルバイトや主婦の場合でも、一定の基準賃金や実収入をもとに計算。
  2. 労働能力喪失率
    • 後遺障害等級に応じて定められた目安をベースにしつつ、被害者の具体的な障害内容・職業特性で修正。
    • 例)14級=5%、12級=14%、10級=27%、9級=35%、など。
  3. 就労可能年数
    • 基本的に67歳(あるいは定年年齢)までを考慮することが多い(女性・男性ともに近年は67歳とすることが裁判例で多い)。
    • 被害者の年齢が高い場合や、実際の定年年齢がもっと早い場合は、修正が行われる可能性がある。
  4. ライプニッツ係数
    • 複利運用を想定した中間利息控除のための係数。

具体的計算例

(例)
・事故前の年収:400万円
・後遺障害等級:10級(労働能力喪失率27%)
・被害者の年齢:30歳(残り就労可能年数37年)
・年5%のライプニッツ係数:22.1672

この場合の逸失利益は、

400万円 × 0.27 × 22.1672≒2394万円

程度が一つの目安(あくまで簡易計算例)。

逸失利益の注意点

  1. 被害者が高齢の場合
    • 就労可能年数が短くなるため、逸失利益も減額されやすい。
    • 高齢でも就労実態がある場合、実際の働き方を証明できれば、ある程度の年数を認められることも。
  2. 主婦(家事従事者)の場合
    • 男女雇用機会均等法以降、男女ともに労働者の平均賃金(賃金センサスの「女性学歴計平均」など)を用いるのが一般的。
    • 家事労働能力の喪失として、労働能力喪失率をそのまま当てはめる。
  3. 子どもや学生の場合
    • 将来の就職や年収を推定するための資料(成績や資格、就職内定状況など)を考慮しつつ判断される場合もある。
    • 裁判例では、学歴や一般的就職状況を踏まえ、「男子・女子の全年齢平均賃金」などを基礎収入とするケースが多い。
  4. 中間利息控除とライプニッツ係数
    • 将来の収入を「今、まとめて受け取る」形になるため、運用益に相当する分を差し引く考え方。
    • 金利の低下が続く現代では、係数を実態に合わせて修正する動きもあるが、まだ統一されていない。

弁護士に相談するメリット

  1. 正確な逸失利益計算
    裁判所基準や最新の判例に基づき、被害者の年齢、職業、収入実態を踏まえて算定。
  2. 過去の判例や裁判例の活用
    被害者の状況に類似する判例を探し、保険会社との交渉で有利な材料として用いる。
  3. 職種・立場ごとの特殊事情に対応
    自営業者やパートタイマー、専業主婦、学生、高齢者など、それぞれのケースに合わせた最適な主張を構築。
  4. ライプニッツ係数の修正主張
    近年の低金利を理由に、年3%や2%といった修正係数を裁判所に認めさせる可能性を探る。
  5. 安心して治療・リハビリに専念
    煩雑な書類作成や交渉を弁護士が代行することで、被害者は治療や生活再建に集中できる。

まとめ

後遺障害等級が認定された場合、示談交渉や裁判で最も大きな金額の差につながるのが「逸失利益」です。正しい知識を持ち、適切に算定して主張することで、被害者は将来の生活を支える重要な補償を得られます。

  • 基礎収入
    会社員なら源泉徴収票、自営業なら確定申告書など
  • 労働能力喪失率
    後遺障害等級ごとの目安+個別事情で修正
  • 就労可能年数
    一般的には67歳まで(年齢や職種で修正あり)
  • ライプニッツ係数
    中間利息を控除するための複利計算係数

もし「自分の逸失利益が正しく計算されているかわからない」「保険会社の提示金額が低すぎるのでは?」と感じたら、弁護士への相談を検討してください。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、後遺障害等級に応じた詳細な損害計算や、示談交渉・裁判対応までをワンストップでサポートいたします。

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