はじめに
交通事故で会社役員や個人事業主といった自営業者が死亡した場合、遺族が請求する逸失利益の算定は、会社員の場合とは大きく異なる難しさを伴います。通常の給与所得者であれば、源泉徴収票や給与明細を基に年収を算出できるところ、会社役員には役員報酬・配当・利益剰余など複雑な収入形態が絡み、個人事業主の場合も決算書や確定申告書、経営状況などを踏まえて将来収入を推定しなければなりません。
本稿では、会社役員や個人事業主が交通事故で死亡した場合に、どのように逸失利益を計算するかについて解説します。被害者が高収入・経営者の立場であった場合、請求額が多額になる反面、保険会社が厳しい姿勢で争ってくる可能性もあります。正しく評価するためのポイントを押さえ、適正な賠償を得るための基礎知識としてお役立てください。
Q&A
Q1:会社役員の逸失利益は、役員報酬のみを基準に算定するのですか?
一般的には、「被害者の役員報酬や配当、実質的な経営利益」などが考慮されます。ただし、配当金は資本収益として扱われる場合があり、すべてが労働による対価とは言えないため、慎重に判断されます。
Q2:個人事業主の場合、どのように将来収入を推定するのでしょう?
確定申告書や決算書を基に、過去の利益推移を参照し、事故がなければ得られたであろう将来利益を算定します。業種特性や市場状況、被害者の技能などを踏まえて検討することも少なくありません。
Q3:会社役員であっても「実質的には給与所得者と変わらない」というケースではどうなりますか?
役員報酬が給与的性格を有し、被害者の働きぶりに応じて決定されている場合は、サラリーマンの年収に近い評価がされることがあります。逆に、ほぼ名目的な役員報酬であれば、実質的な労働対価とは言えない部分は排除される可能性もあります。
Q4:会社役員・個人事業主の死亡事故で、高額賠償を獲得するために重要なポイントは?
正確な収入実態の把握が最優先です。帳簿や確定申告書、過去数年の業績資料などを整備し、被害者が実質的に得ていた収入や事業利益を具体的に示せるかどうかがカギとなります。
解説
会社役員の場合の逸失利益評価
- 役員報酬の位置づけ
- 役員報酬が実質的な労働の対価として支払われているのか、それとも出資者としての地位(配当的性質)を反映しているのかを区別する。
- 労働の対価部分は逸失利益として計上しやすいが、投資家としての収益(配当金)は労働能力とは異なる性質がある。
- 複数年の報酬実績・企業業績
- 事故前数年の役員報酬・企業業績を確認し、安定的に得られていた報酬かどうかを判断。
- 業績が好調だったからといって、将来ずっと高額報酬が続くと認定されるわけではない。
- 就労可能年数・ライプニッツ係数
- 原則67歳までを就労可能年数とするのが裁判所の一般的傾向だが、役員の場合はより長く就労するケースもあり得る。
- 会社の慣行や役員の定年制度などを考慮し、適切な年数で逸失利益を算定。
個人事業主の場合の逸失利益評価
- 基礎収入の算定
- 確定申告書(青色申告・白色申告問わず)の申告所得金額が参考となる。
- 実際の所得より過少申告している場合、証拠不足で低く評価されるリスクがある。
- 事業継続性
- 被害者の死後、家族が事業を引き継ぎ、売上が継続する場合、どの程度被害者本人の働きによる貢献が失われたかを分析。
- 被害者が主要な技能や顧客ネットワークを担っており、死後に売上が大きく落ち込んだ場合は、その差額を根拠に逸失利益を主張できる可能性もある。
- 将来の事業拡大可能性
被害者が中核であった場合、「将来的な経営発展による収益増」をどう評価するかが争点になることもある。保険会社は「不確実」として否定的に主張する場合が多い。
留意点とトラブル事例
- 過少申告や無申告
所得を実際より低く申告していた場合、帳簿や証拠がないと裁判所も高額な逸失利益を認めにくい。 - 急成長中の企業
事業が軌道に乗り出した直後の事故だと、本来得られたであろう利益を証明しづらく、保険会社は「実績がない」と反論。 - 法人格との分離
法人の利益と個人の収入を明確に区別できていないと、賠償金の計算が混乱しやすい。適正に役員報酬を設定していなかった場合、交渉難航。
弁護士に相談するメリット
- 適切な会計・税務の知見
交通事故に強い弁護士は、会計士や税理士と連携しながら、役員報酬・個人事業主の所得を正しく算定するノウハウを持っている。 - 将来収益の立証
被害者の経営能力や事業計画、営業実績などを総合的に評価し、「逸失利益がこれだけ見込まれる」と説得力ある資料を保険会社や裁判所に提示。 - 過少申告のフォロー
不完全な申告書だけでは不利だが、他の証拠(銀行口座の入出金記録、取引先の証言など)で実収入を補強できる可能性を探る。 - 高額示談交渉をリード
会社役員・個人事業主の死亡事故は数千万円以上の大きな賠償金が動くことも多く、弁護士の専門性が増額に直結しやすい。 - 弁護士費用特約の利用
遺族が加入する自動車保険に特約があれば、弁護士費用の自己負担がなく、早期依頼しやすい。
まとめ
会社役員や個人事業主などの経営者的立場の方が交通事故で亡くなった場合、逸失利益の算定は極めて複雑です。役員報酬・配当・事業収益・決算書の信憑性など、多くの要素が絡み合い、保険会社との示談交渉や裁判で高額賠償をめぐる激しい争いとなりがちです。
- 役員報酬の実態や配当の性質を区別して評価
- 個人事業主の確定申告書や帳簿を正確に把握、将来収益の見込みを立証
- 家族が事業を継続した場合、被害者本人の働き分をどこまで金額に置き換えられるか
- 弁護士の専門知識・会計的視点が不可欠
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、会社役員や個人事業主の死亡事故案件を多数手がけており、会計・税務の専門家とも連携しながら、正当な逸失利益を主張・立証する体制を整えています。大切な家族の経営者が亡くなり、過少評価されそうだと感じたら、ぜひお早めにご相談ください。
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