はじめに
交通事故における損害賠償請求では、財産的損害(治療費や修理費など、経済的な出費が発生するもの)と、精神的損害(慰謝料など、苦痛や悲しみに対する補償)を区別して考える必要があります。被害者側としては、「どの項目が財産的損害にあたり、どの項目が精神的損害なのか」を正しく理解し、漏れなく主張することが大切です。
本稿では、財産的損害と精神的損害の具体例や、それぞれを計算する際のポイント、保険会社との交渉で見落としがちな項目などを解説します。損害項目を分類して漏れなく請求することで、最終的な示談金を大きく変更することが可能となります。
Q&A
Q1:財産的損害と精神的損害は、具体的にどう違うのでしょう?
財産的損害は、事故によって実際の支出や収入減が生じたもの(治療費、修理費、休業損害、逸失利益など)です。精神的損害は、苦痛や不安、痛みに対する慰謝料など、金銭的に換算しづらい損害を指します。
Q2:財産的損害にはどのような項目がありますか?
代表的なのは、治療費、通院交通費、入院雑費、休業損害、逸失利益、物損(車や物の修理費)などです。死亡事故の場合は、葬儀費用や被害者本人の逸失利益なども含まれます。
Q3:精神的損害(慰謝料)には、どのようなものがありますか?
傷害慰謝料(ケガを負って通院・入院した苦痛)、後遺障害慰謝料(後遺障害が残った苦痛)、死亡慰謝料(死亡による被害者本人の苦痛と、近親者の精神的苦痛)などが典型的です。
Q4:どちらの損害も、それぞれ漏れなく主張しないと損をするのでしょうか?
はい。財産的損害と精神的損害は別々に計上され、合計額が示談金(賠償金)となります。どちらかを十分に主張していないと、本来受け取れる金額よりも大幅に低い示談金で妥協するリスクがあります。
Q5:保険会社が「修理費と治療費は出しますが、慰謝料はこの程度」と言ってきました。まだ他にも請求できる項目はありますか?
たとえば、休業損害(仕事を休んだ分の収入減)や通院交通費、入院雑費、後遺障害が残る場合の逸失利益などが考えられます。保険会社が提示していない項目についても、根拠を示して請求可能です。
Q6:交通費や領収書を捨ててしまったのですが、どうすればいいでしょう?
領収書を捨ててしまうと立証が難しくなります。ただし、銀行の引き落とし記録やクレジットカード明細、通院日や通院ルートの記録などを活用して、おおよその金額を認めてもらえるよう弁護士が交渉できる場合もあります。
解説
財産的損害の主要項目
- 治療費・リハビリ費
- 医療機関での診察・治療・手術・投薬・リハビリなどに要した費用。
- 症状固定までは保険会社が支払うケースが多いが、保険会社が一方的に打ち切りを主張する場合もある。
- 通院交通費・入院雑費
- バス・電車・タクシー・自家用車での通院費用や、入院中の雑費(洗濯代、パジャマ代など)を請求可能。
- 休業損害
- 事故で仕事を休んだ期間に得られなかった収入を補償。会社員なら給与明細、自営業なら確定申告などの資料で立証。
- 逸失利益
- 後遺障害が残った場合や死亡事故の場合に、将来得られるはずだった収入の減少分を請求。計算式は基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数×ライプニッツ係数が基本。
- 物損(車両や物の修理費、買い替え費)
- 車やバイク、自転車、持ち物が壊れた場合の修理代や買い替え費用。車両の時価額を超える修理費用は認められないことが多い。
精神的損害(慰謝料)の主要項目
- 傷害(入通院)慰謝料
ケガを負い、治療・通院での苦痛を補償。通院日数や入院期間などをベースに金額を算定。 - 後遺障害慰謝料
症状固定後に残る後遺障害等級に応じて算定。14級なら110万円前後、1級なら2,800万円前後が裁判所基準の目安。 - 死亡事故の慰謝料
被害者本人の死亡による苦痛への補償と、近親者の精神的苦痛(近親者慰謝料)をあわせて請求。 - 近親者固有の慰謝料
被害者本人以外にも、配偶者・子・両親などが被害者を失ったことで受ける精神的苦痛を個別に請求できる場合がある。
交渉で見落としがちな項目
- 入院雑費・家屋改造費
長期入院で消耗品や面会交通費がかかる場合、領収書やメモを取っておくのが大切。家屋改造(手すり設置など)は後遺障害で必要なら請求可能。 - 通院付き添い費用
子どもや重度障害者の場合、家族が付き添うための交通費や休業損害が発生するケースもある。 - 介護費・介護用具費
後遺障害が重く、介護が必要となった場合の日常介護費用やオムツ代、車椅子代など。 - 近親者慰謝料
死亡事故だけでなく、被害者が重度障害を負った場合に、近親者にも看護負担や精神的苦痛が認められる判例がある。
弁護士に相談するメリット
- 全損害項目の網羅
弁護士が損害項目を洗い出し、財産的損害と精神的損害をきっちり分類・計算することで、請求漏れを防ぐ。 - 過失割合や後遺障害認定の交渉
これらの要素によって大きく金額が変動するため、弁護士が過失割合を減らし、後遺障害等級を適切に獲得する支援を行う。 - 書類・証拠収集のサポート
領収書、診断書、通院記録、家事労働実績などを的確に整備し、保険会社や裁判所に提示。 - 精神的負担を軽減
事故後の痛みや通院のなかで複雑な示談交渉をするのは困難。弁護士がすべて窓口を引き受け、被害者は治療に集中できる。 - 弁護士費用特約で費用負担をゼロに
特約があれば依頼費用が保険会社持ちとなり、経済的リスクなしにサポートを受けられる。
まとめ
交通事故で請求する損害賠償項目は、財産的損害と精神的損害に大別できますが、両方の内容をしっかり区別して網羅しないと、大幅に請求漏れや過小評価が発生する可能性があります。
- 財産的損害:治療費、通院交通費、休業損害、逸失利益、物損など
- 精神的損害:傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料など
保険会社は、低い提示金額しか出さないことが多いため、示談前に弁護士に相談し、示談書にサインする前に適正な計算をしてもらうことが肝心です。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、被害者の方にとって最適な損害項目の主張と裁判所基準での適正評価を目指すサポートを行っています。
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