はじめに
交通事故では、歩行者や自転車が相手(自動車など)より「弱者」とされる観点から、基本的には自動車側が大きな過失割合を負いやすい傾向があります。しかし、歩行者や自転車でも何らかの交通ルール違反や不注意があれば、一定の過失が認められる場合が多いのも事実です。一方で、歩行者や自転車にまったく落ち度がないと認められ、過失割合が0%になる、つまり過失が完全に否定される判例も存在します。
本稿では、歩行者・自転車側の過失が「否定」された事例を取り上げ、裁判所がどのような事実関係を重視して被害者無過失と判断したのかを解説します。たとえば、加害者が飲酒運転や速度超過などで著しい注意義務違反を犯し、被害者にはまったく避けようがなかったと認定されるような事例が挙げられます。こうした判例を参考にすることで、被害者側が保険会社との示談交渉で「過失ゼロ」を主張する際の根拠づくりにも役立ちます。
Q&A
Q1:歩行者・自転車側の過失が0%になることは実際には少ないのではないですか?
一般的には、歩行者・自転車に多少なりとも不注意があれば過失が一定割合認定されるケースが多いです。しかし、加害車両が著しく悪質な運転(飲酒、速度超過、赤信号無視など)をしていたり、被害者が通常の注意をしていたのに避けられなかったと明白に示されれば、0%になる事例もあります。
Q2:どのような事情があれば「被害者に避ける手段がなかった」として過失を否定されるのでしょう?
例えば、歩道を歩いていて突然歩道乗り上げされて衝突された場合や、青信号で横断していたのに加害車両が猛スピードで突っ込んできた場合など、被害者に「注意義務の履行」で回避できる時間や手段がなかったとき、無過失とされることが考えられます。
Q3:自転車が夜間にライトを点けていなかったとしても、無過失が認められることはありますか?
通常は無灯火が被害者に過失を認定する材料となりますが、加害車両の速度超過や飲酒があまりに著しく、自転車がライトを点けていようと事故は避けられなかったと裁判所が判断すれば、自転車側過失0%となることも考えられます。もっとも、無灯火であると加害者から「被害者にも落ち度がある」と主張されやすいので、慎重な立証が必要です。
Q4:歩行者が道路の端をきちんと歩いていたのに、後ろからはねられた事例では0%になりやすい?
はい、そのように歩行者が通常の注意を尽くしていた場合、一方的に加害車両が注意義務違反をして突っ込んできたなら、被害者側の過失を否定する判例があります。加害車両の前方不注視や車線逸脱などが重大とされるでしょう。
Q5:保険会社が「歩行者・自転車だからといって無過失になるわけではない」と主張してきたら、どう反論すればいいですか?
まずは具体的な事故態様を示し、被害者がどれだけ注意義務を果たしていたか、加害者がどれほど重大な違反をしていたかを明確にしつつ、過失0%と認められた判例(類似事案)を提示します。弁護士が事実関係を整理し、「不可避の事故状況」だったことを論じるのが有効です。
Q6:歩行者・自転車事故で被害者が無過失と認められれば、治療費や慰謝料は満額もらえるのでしょうか?
被害者の損害額全体(治療費・休業損害・慰謝料・逸失利益など)を100%受け取ることが可能です。ただし、被害者過失が0%を確定するには明確な証拠と裁判所の認定が必要で、保険会社が争う可能性は高いため、弁護士のサポートが有用です。
解説
歩行者・自転車の過失が否定される想定事例
- 歩道走行中の事故
歩行者が歩道を通常どおり歩いているときに、車が急ハンドル・車道逸脱などで歩道へ突っ込んだケース。 - 青信号横断 vs 飲酒・猛スピード車
歩行者や自転車が青信号で横断していたが、相手が飲酒運転や時速20〜30kmオーバーで赤信号を無視して突っ込んできた。 - 後方からの一方的追突(自転車含む)
自転車が車道左端を正常に走行していたのに、後続車や後続バイクが追突。自転車には進路変更や無灯火などの違反なし。
裁判所が重視する立証要素
- 被害者の遵法性・注意義務の実践
- 信号を守っていたか、夜間は反射材やライトを利用していたか、歩行者なら歩道や横断歩道を正しく利用していたか。
- 被害者が道路交通法のルールに従っていれば、過失を否定しやすい。
- 加害者の重大違反・悪質性
- 飲酒運転、赤信号無視、大幅な速度超過、無免許運転など、加害者が著しく社会的に許されない行為をしていた場合。
- 裁判所は被害者が無過失であるとの判断を強く下しやすい。
- 客観的証拠の存在
- ドライブレコーダー映像、防犯カメラで加害車が異常に速いスピードや信号無視をしていたことが確認できる。
- 目撃者証言で被害者がきちんと横断歩道を渡っていた、などの事実が裏付けられれば、被害者過失0%に導きやすい。
示談・裁判への活かし方
- 保険会社への主張
- 保険会社が「被害者にも過失がある」と提示してきても、被害者が交通ルールを守っていた証拠や、加害者の違反を示す資料(警察の実況見分調書など)を突き付ける。
- 弁護士が「過失0%が認められた判例」を挙げ、示談段階で保険会社の態度を軟化させる。
- 裁判所での立証
- 被害者が「通常の注意を尽くした」と具体的に示し、加害者が「避けられる状況だったのに回避していない」「飲酒運転だった」といった悪質性を強調。
- 裁判例を引用し、「類似事案で被害者が無過失と認定されている」と論じる。
- 自転車保険や弁護士費用特約もチェック
- 被害者が歩行者・自転車でも、自らの自動車保険や家族の保険に弁護士費用特約がついている可能性がある。
- 無過失を勝ち取るための裁判で弁護士を依頼しても、費用を心配しなくて済む場合あり。
弁護士に相談するメリット
- 無過失を立証する証拠収集
弁護士が事故現場の調査、警察記録や映像の取得、目撃者の確保などを行い、被害者に過失がないことを具体的に積み重ねる。 - 加害者の重大違反を追及
飲酒運転や信号無視、速度超過など、相手の違反を詳細に示し、保険会社が「歩行者・自転車側にも落ち度がある」と言いがたい環境を整える。 - 過去の無過失判例の提示
類似事案で「被害者0%」とされた裁判例を示し、保険会社の低額提示を覆す。 - 示談交渉・裁判での安心感
被害者自身が不慣れな手続きに戸惑うことなく、弁護士に一任することで精神的負担を軽減。 - 弁護士費用特約があれば負担を軽減できる
歩行者・自転車でも、自動車保険や家族の保険特約が使える場合があるので、費用を気にせず専門家に相談可能。
まとめ
歩行者・自転車側の過失が完全に否定(0%)されるとは限りませんが、加害車両の極端な悪質性や被害者の遵法意識が明確であれば、被害者にまったく落ち度がないと認定されることも想定されます。具体的には、
- 被害者が横断歩道上を青信号で渡っていた
- 歩道を正常に歩行していたが車が歩道に突っ込んできた
- 加害者が飲酒運転・大幅速度超過・信号無視など重度の違反
などの場合、裁判所が被害者無過失を認め、100%賠償を命じることが想定されます。保険会社が少しでも被害者の過失を指摘してきたら、客観的証拠で対抗し、無過失判例を引用して主張を押し通すことが重要です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、こうした被害者無過失のケースを数多く取り扱い、裁判例に基づく法的議論と証拠の収集によって、保険会社の不当な過失主張を排除するサポートを実践しています。「自分には過失がないのに、なぜか過失を認めるよう迫られている」とお困りの方は、ぜひご相談ください。
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