はじめに
交通事故で被害者が死亡または重度の後遺障害を負った場合、逸失利益の算定は示談交渉・裁判で大きな争点となります。若年者であれば、これから長期にわたり働き続けるはずだった労働能力喪失期間を考慮し、高齢者であれば「すでに働く見込みが少ない」として逸失利益が減らされやすいといった扱いが一般的です。しかし、近年は高齢者の就業率が上昇し、70歳を超えても働く人が増えています。こうした社会的状況を踏まえ、裁判所が高齢被害者にも一定の逸失利益を認める判例も存在します。
本稿では、高齢者と若年者の逸失利益の差が争点となった主な判例を取り上げ、どのように裁判所が年齢を考慮し、逸失利益を算定しているかを解説します。若年者の場合も、将来の収入増などをどう評価するかで大きく金額が変わるため、示談交渉や裁判で押さえるべきポイントを示します。
Q&A
Q1:若年者だからといって、必ず高額な逸失利益が認められるわけではないのですか?
若年者の場合、就業可能年数が長いため、逸失利益が高額化しやすいですが、無職や学生、将来不確定な要素があると保険会社が争点にすることがあります。また、適切に証拠を整備しないと想定収入が低く見積もられる場合があります。
Q2:高齢者だと逸失利益がほとんど認められないと聞きますが、最近は変わってきていますか?
70代でもパート勤務や自営業を続けていた実績があれば、それをもとに裁判所が「ある程度の労働を続けられた」として逸失利益を認める事例も増えています。
Q3:専業主婦や無職でも、高齢者・若年者を問わず逸失利益を認められることはあるのでしょうか?
専業主婦なら家事労働の経済的価値が認められ、賃金センサスを参考に逸失利益を算出します。若年者の無職や学生でも、将来就職可能性を考慮して賃金センサスをベースにする判例も多いです。高齢の専業主婦でも一定の家事労働能力を評価されるケースがあります。
Q4:高齢者が後遺障害を負った場合、裁判所は何歳まで働けるとみるのでしょうか?
原則は67歳までが就業可能年数とされることが多いですが、近年は社会情勢を踏まえ、70歳以上まで認める判例もあります。被害者が実際に仕事をしていたか、健康状態、職業実態などを具体的に立証することが重要です。
Q5:若年者が職につかず留学を考えていた場合など、将来収入が不確定なときはどう判断されるのですか?
裁判所は賃金センサス(平均賃金)などを基本にしながら、被害者の学歴、資格、将来の計画などを考慮し、推定収入を導きます。100%は認めないにしても、将来の収入が見込まれるとして高めに評価する例もあります。
Q6:過去の判例では、若年者・高齢者の逸失利益の差がどのくらい表れていますか?
若年者は就業可能年数が長く、また将来昇給も期待できるとして数千万〜1億円近い逸失利益を認められる事例もあります。高齢者は退職間際とみなされるため低くなりがちですが、実際にパートや自営業収入があれば数百万円〜数千万円を認める裁判例
解説
若年者の逸失利益が争点になった判例
- 大学生の死亡事故
- まだ就職前の大学生が事故で亡くなった場合、裁判所は賃金センサスの平均賃金をベースに22歳〜67歳まで働いていたと推定し、逸失利益を算定するのが一般的。
- 被害者が著名大学や専門スキルの取得過程にあった場合、裁判所が収入上昇の可能性を多少加味することもある。
- 高校生・中学生の将来収入
- 判例で「賃金センサスの男性学歴計(全年齢平均)」を基に計算し、加害者の「まだ働いていないので不確定だ」との主張を退けた事例多数。
- 被害者の成績や特別な将来計画があれば考慮される場合もある。
- 無職の若年者
- 学校を卒業してまだ就職していなかったり、フリーター状態の若者でも、「働く意欲があった」「就職活動中だった」といった事情を示せば賃金センサスをベースに算定する判例が多い。
高齢者の逸失利益が争点になった判例
- 定年後にパート・自営業を続ける高齢者
- 判例で、65歳や67歳を超えて働いていた実績があれば70歳以上まで就労を認めた事例あり。
- 「実際に継続していた仕事が事故で絶たれた」と証明すれば、年齢を理由に0円とするのは不当との判断が見られる。
- 年金受給との併用
- 年金を受給しながらパートなどで収入を得ていた被害者が事故で働けなくなったケース。
- 一般に年金そのものは労働対価ではないが、仕事による追加収入は逸失利益として認められる。判例では収入実態次第で高齢でも数百万円〜が認められる例がある。
- 健康状態・就労実績の立証
- 高齢者が持病を抱えていたり、実際には労働できなかったと疑われると、逸失利益は否定または大きく減額されやすい。
- 判例では「事故前も健康で働いていた」ことを医師や勤務先の証言で示し、70歳まで就労可能と認定された例が複数ある。
示談交渉・裁判への活用
- 若年者は将来昇給・キャリアを主張
- 判例で大学生や専門学校生が「高い就職先が期待された」として賃金センサスを参考に認める事例がある。
- 保険会社が「アルバイト収入しかない」と低く見積もっても、判例を根拠に反論すれば増額できる場合がある。
- 高齢者は実績と社会情勢を強調
- 70代でも働いていた事実を示し、収入の証拠(確定申告書・通帳)を提出して、過去の判例で高齢者が逸失利益を認められた事例を示す。
- 近年の傾向で「65歳以上でも雇用継続が一般化している」という社会状況を主張。
- 弁護士が判例を引用し保険会社を説得
- 「判例Xでは65歳の被害者に70歳までの逸失利益を認めた」など具体的に示すと、保険会社も訴訟リスクを考え示談で妥協することがある。
弁護士に相談するメリット
- 逸失利益判例の分析
弁護士が最新の裁判例や学説、賃金センサスの変動などを考慮し、保険会社の提示が妥当か精査。 - 個別事情の立証
若年者なら「将来の就職可能性」、高齢者なら「実際に働いていた実績」などを必要証拠(源泉徴収票、確定申告、契約書など)で裏づける。 - 示談・裁判での適切な主張
裁判所がどのような要素を重視するかを熟知し、保険会社に対して類似事例を提示して増額を交渉。 - 加害者悪質性のアピール
飲酒運転や無免許などがあれば、逸失利益だけでなく慰謝料も増額を狙える。弁護士が裁判例を引用し、精神的苦痛の大きさを強調。 - 弁護士費用特約
高齢者・若年者いずれの場合も、長期の交渉や裁判を見越すなら、特約があれば費用リスクなしで弁護士に依頼できる。
まとめ
高齢者と若年者の逸失利益をめぐる裁判例をみると、年齢で一概に決まるわけではなく、実際の就労実態や将来の就労可能性をどう証明するかが大きなカギとなっています。若年者なら賃金センサスが基準となり、高齢者でも現役で仕事をしていたなら70歳以上までの逸失利益を認める事例も出るなど、社会情勢の変化を反映してきています。
- 若年者
大学生・高校生でも将来の労働が見込まれ、賃金センサスを適用 - 高齢者
働いている実績や健康状態を示せば、67歳を超えても就労可能年数を認める判例が増加 - 裁判例の詳細
1例1例異なる事情(加齢性疾患、バイトか正社員かなど)を考慮 - 弁護士の専門性
類似事例に基づき、保険会社の過小評価を覆し高額逸失利益を獲得
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、被害者の年齢や就労状況を丁寧にヒアリングし、裁判例を活用して本来受け取るべき逸失利益を最大限主張いたします。保険会社の提示が低い、年齢を理由に減額されているなどと感じたら、ぜひお早めにご相談ください。
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