交通事故の慰謝料の相場と計算方法|弁護士基準が最も高額な理由

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はじめに

突然の交通事故に遭われ、心身ともに大変な思いをされていることと存じます。お怪我の治療や今後の生活への不安など、心配事が尽きない中で、加害者側の保険会社から賠償金に関する連絡が届くことになります。

その賠償金の中でも、被害者の方が受けた精神的な苦痛に対して支払われるのが「慰謝料」です。多くの方が、「慰謝料は一体いくらもらえるのだろうか」「保険会社が提示してきた金額は妥当なのだろうか」といった疑問をお持ちになるのではないでしょうか。

実は、交通事故の慰謝料には3つの異なる計算基準が存在し、どの基準を用いるかによって受け取れる金額が大きく変わってきます。そして、多くの場合、保険会社が最初に提示する金額は、法的に最も正当とされる基準よりも低いのが実情です。

この記事では、交通事故の被害に遭われた方が、ご自身の受け取るべき正当な慰謝料について理解を深められるよう、以下の点を中心に分かりやすく解説します。

  • 慰謝料の3つの種類と、その計算に使われる3つの基準
  • なぜ弁護士が用いる「弁護士基準」が最も高額になるのか
  • 慰謝料の具体的な計算方法と相場
  • 適正な慰謝料を受け取るために弁護士に相談する重要性

この記事が、適正な賠償金を受け取るための一助となれば幸いです。

Q&A

Q1. 交通事故の慰謝料は、誰が計算しても同じ金額になりますか?

いいえ、同じ金額にはなりません。慰謝料の計算には、主に「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」という3つの基準が使われます。このうち、どの基準を適用するかで金額が大きく変動します。一般的に、補償額は「自賠責基準 < 任意保険基準 < 弁護士基準」の順に高額になります。加害者側の保険会社は、自社の基準である任意保険基準か、それに近い金額を提示してくることがほとんどです。

Q2. 弁護士に依頼すると、慰謝料は本当に増えるのですか?

はい、増額する可能性が十分にあります。前述の通り、加害者側の保険会社が提示する慰謝料額は、過去の裁判例に基づく法的に正当な基準である「弁護士基準」よりも低いことが大半です。弁護士が被害者の方の代理人として交渉することで、この最も高額な弁護士基準を前提とした請求を行います。そのため、最終的に受け取れる慰謝料を含む賠償金全体が増額されるケースが多く見られます。

Q3. 慰謝料の具体的な計算方法が知りたいです。自分でも計算できますか?

慰謝料の大まかな目安をご自身で計算することは可能です。特に、お怪我に対する「入通院慰謝料」は、治療期間や通院日数がある程度分かれば、弁護士基準の算定表を用いることで相場を把握できます。しかし、後遺障害が残った場合の「後遺障害慰謝料」や、事故の個別具体的な事情を反映させた正確な金額の算定には、専門的な知識と経験が不可欠です。この記事の解説部分で計算方法の概要をご紹介しますが、ご自身の状況における適正な金額を正確に知るためには、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

解説

1. 交通事故における「慰謝料」とは?

まず、慰謝料が損害賠償全体の中でどのような位置づけにあるのかを理解することが重要です。交通事故の被害に遭った場合、加害者に対して請求できる損害賠償金には、以下のような項目が含まれます。

  • 積極損害:事故によって被害者が実際に支払いを余儀なくされた費用
    治療費、通院交通費、入院雑費、将来の介護費用、葬儀費用など
  • 消極損害:事故がなければ得られたはずの利益
    休業損害、逸失利益(後遺障害または死亡による将来の減収分)
  • 慰謝料:事故によって受けた精神的苦痛に対する賠償金
    入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料

このように、慰謝料は損害賠償金の一部であり、事故による怪我の痛みや、治療のための入通院、後遺障害が残ったこと、あるいはご家族を亡くされたことなどによって生じた「精神的な苦痛」を金銭に換算したものです。慰謝料には、以下の3つの種類があります。

  1. 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
    交通事故によるお怪我で、入院や通院を余儀なくされたことに対する精神的苦痛への賠償です。
  2. 後遺障害慰謝料
    治療を続けたにもかかわらず、完治せずに後遺障害が残ってしまった場合の精神的苦痛への賠償です。これは、後述する後遺障害等級の認定を受けることが前提となります。
  3. 死亡慰謝料
    交通事故により被害者の方が亡くなられた場合の、ご本人およびご遺族の精神的苦痛への賠償です。

2. 慰謝料の金額を左右する「3つの算定基準」

慰謝料額を決定づける最も重要な要素が、どの「基準」を用いて計算するかという点です。ここでは、3つの基準それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

① 自賠責基準

「自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)」は、法律によってすべての自動車(原付含む)に加入が義務付けられている強制保険です。その目的は、交通事故被害者への最低限の救済を確保することにあります。

そのため、自賠責基準による慰謝料は、あくまで最低限の補償という位置づけになります。また、自賠責保険には損害全体(治療費、休業損害、慰謝料など全て含む)で支払われる金額に上限が設けられています。

  • 傷害による損害
    上限120万円
  • 後遺障害による損害
    等級に応じて上限75万円~4,000万円
  • 死亡による損害
    上限3,000万円

例えば、入通院慰謝料は、原則として1日あたり4,300円(2020年4月1日以降に発生した事故の場合)で計算されます。対象となる日数は、「治療期間(入院期間+通院期間)」と「実治療日数(実際に入院・通院した日数)×2」のうち、いずれか少ない方を採用します。この計算方法により、治療が長期にわたっても、実際の通院日数が少ない場合は慰謝料が低く抑えられてしまうことがあります。

② 任意保険基準

「任意保険」は、自賠責保険ではカバーしきれない損害を補償するために、ドライバーが任意で加入する保険です。この任意保険会社が、示談交渉の際に用いるのが「任意保険基準」です。

この基準は、各保険会社が独自に内部で定めているもので、公にはされていません。一般的には、自賠責基準よりは高く、次に説明する弁護士基準よりは低い水準に設定されていると言われています。加害者側の保険会社は、営利企業として自社の支出を抑える必要があるため、法的に最も正当な弁護士基準ではなく、この自社基準で計算した慰謝料額を提示してくるのが通常です。

③ 弁護士基準(裁判所基準)

「弁護士基準」は、これまでの交通事故に関する裁判の判例を積み重ねて形成された基準です。裁判になった場合に裁判所が用いる基準であることから、「裁判所基準」とも呼ばれます。

この基準は、被害者が受けた精神的苦痛を賠償するための、法的に最も正当かつ客観的な基準と考えられており、3つの基準の中では最も高額になります。

しかし、弁護士基準を用いて加害者側の保険会社と交渉するには、法律と判例に関する専門知識が不可欠です。被害者ご本人が「弁護士基準で支払ってほしい」と主張しても、保険会社がそれに応じることはほとんどありません。「弁護士の先生にご依頼された場合や、裁判になった場合の基準ですので」と、取り合ってもらえないのが実情です。

弁護士が代理人として交渉することで、初めて保険会社はこの弁護士基準を土台とした交渉に応じるのです。これが、弁護士に依頼すると慰謝料が増額される大きな理由です。

3. 【種類別】弁護士基準による慰謝料の計算方法と相場

それでは、弁護士基準を用いると、具体的に慰謝料はいくらくらいになるのでしょうか。3つの慰謝料の種類ごとに見ていきましょう。

① 入通院慰謝料の計算と相場

弁護士基準では、入通院慰謝料を「損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」などに掲載されている「入通院慰謝料算定表」を用いて算出します。この表は、入院月数と通院月数を当てはめることで、慰謝料の目安が分かるようになっています。

算定表には、骨折など画像所見がある比較的重い怪我の場合に用いる「通常用(別表Ⅰ)」と、むちうち症で他覚所見(レントゲンやMRIで異常が確認できない)がない場合などに用いる「軽傷用(別表Ⅱ)」の2種類があります。

<入通院慰謝料(通常用・別表Ⅱ)の例>

通院期間慰謝料の目安
1ヶ月19万円
2ヶ月36万円
3ヶ月53万円
4ヶ月67万円
5ヶ月79万円
6ヶ月89万円

※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間がある場合はさらに高額になります。

※例えば、通院6ヶ月の場合、自賠責基準では最大でも「4,300円×180日=774,000円」ですが、弁護士基準では89万円となり、その差は明らかです。さらに、実通院日数が少ないと自賠責基準はもっと低くなりますが、弁護士基準では原則として通院期間で算定するため、金額が安定します。

② 後遺障害慰謝料の計算と相場

後遺障害慰謝料は、症状固定後(これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態)に申請し、認定された「後遺障害等級」に基づいて決まります。後遺障害等級は、障害の程度に応じて第1級(最も重い)から第14級(最も軽い)まで定められています。

ここでも、自賠責基準と弁護士基準では金額に大きな差が生じます。

<後遺障害慰謝料の等級別相場(自賠責基準と弁護士基準の比較)>

後遺障害等級自賠責基準(上限額)弁護士基準(目安)主な症状の例
第1級1,650万円2,800万円常に介護が必要な状態
第5級618万円1,400万円片腕の全廃、両足の足指を全て失う
第9級249万円690万円生殖器の重大な障害、片目の失明
第12級94万円290万円むちうち等で頑固な神経症状を残すもの
第14級32万円110万円むちうち等で神経症状を残すもの

※自賠責基準の金額は、慰謝料だけでなく逸失利益なども含めた上限額(介護不要の場合)です。

※ご覧の通り、特に等級が重くなるほど、その差は数倍から1,000万円以上にまで広がります。最も認定されることが多い14級9号(むちうち)でも、その差は約3倍以上になります。

③ 死亡慰謝料の計算と相場

交通事故で被害者の方が亡くなられた場合、亡くなられたご本人の慰謝料と、ご遺族固有の慰謝料が支払われます。弁護士基準では、これらを合算した金額を、亡くなられた方の家庭内での立場に応じて算定します。

<死亡慰謝料の相場(弁護士基準)>

  • 一家の支柱(被害者の収入で家族が生活していた場合)
    2,800万円程度
  • 母親、配偶者
    2,500万円程度
  • その他(独身の男女、子ども、高齢者など)
    2,000万円~2,500万円程度

これに対し、自賠責基準での死亡慰謝料は、ご本人分が400万円(2020年4月1日以降の事故の場合)、遺族分が請求権者の人数に応じて550万円~750万円、さらに被扶養者がいる場合に200万円が加算される仕組みです。合計しても、弁護士基準の金額には遠く及ばないことが分かります。

弁護士に相談するメリット

これまで解説してきた通り、慰謝料の増額が最大のメリットですが、弁護士に依頼するメリットはそれだけではありません。

慰謝料を含む賠償全体の増額が期待できる

最大のメリットは、やはり賠償金の増額です。弁護士が介入し、法的に最も正当な「弁護士基準」で交渉することで、慰謝料だけでなく、休業損害や逸失利益といった他の損害項目についても、適正な金額を請求することができます。保険会社の提示額から、最終的に数百万円単位で増額されるケースも少なくありません。

加害者側(保険会社)との交渉窓口を一本化できる

交通事故後、被害者の方は心身ともに大きな負担を抱えています。そのような状況で、法律や交渉のプロである保険会社の担当者と、慣れないやり取りを続けることは、精神的にも時間的にも大きなストレスとなります。弁護士に依頼すれば、すべての交渉を任せることができ、被害者の方は治療や生活の再建に専念できます。

適正な「後遺障害等級」の認定をサポートしてもらえる

後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取るためには、まず「後遺障害等級」の認定を受けなければなりません。この認定は、医師が作成する「後遺障害診断書」の内容が非常に重要になります。弁護士は、認定のポイントを踏まえ、診断書の記載内容について医師に適切な情報提供を依頼したり、認定に必要な検査をアドバイスしたりすることができます。万が一、非該当となったり、想定より低い等級が認定されたりした場合の「異議申立て」手続きも、専門家として力強くサポートします。

事故態様に応じた「過失割合」を主張できる

交通事故では、被害者側にも何割かの過失(不注意)があったと判断されることがあります。これを「過失割合」といい、例えば被害者の過失が1割(10%)とされれば、全体の損害賠償額から10%が減額されてしまいます。保険会社は、自社に有利な過失割合を提示してくる傾向がありますが、弁護士が事故状況を客観的な証拠(ドライブレコーダー、刑事記録など)に基づいて精査し、過去の判例と照らし合わせることで、被害者にとって不利にならないよう、適正な過失割合を主張します。

まとめ

今回は、交通事故の慰謝料の相場と計算方法、そして弁護士基準が最も高額になる理由について解説しました。

  • 交通事故の慰謝料には「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類があります。
  • 慰謝料の計算には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあり、弁護士基準が最も高額です。
  • 保険会社が提示する金額は、自社基準である任意保険基準で計算されており、法的に正当な金額よりも低いことがほとんどです。
  • 弁護士に依頼することで、慰謝料を含む賠償金全体の増額だけでなく、交渉のストレスからの解放や、後遺障害等級認定のサポートなど、多くのメリットが得られます。

交通事故の被害に遭われた方が、ご自身の受けた損害に見合った正当な賠償金を受け取ることは、当然の権利です。加害者側の保険会社から提示された示談案に、少しでも疑問を感じたら、安易にサインをしてしまう前に、ぜひ一度、交通事故問題に精通した弁護士にご相談ください。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、交通事故の被害に遭われた方々が適正な賠償を受けられるようサポートを行っております。初回のご相談は無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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