はじめに
交通事故による頭部外傷がきっかけで、高次脳機能障害が発症することがあります。高次脳機能障害の症状としては、前回(No.101)で触れた記憶障害、注意障害、遂行機能障害などが代表的ですが、そもそもなぜ脳が損傷して、このような認知・行動面の問題が生じるのでしょうか。
本稿では、高次脳機能障害の原因と診断のプロセスに焦点を当て、事故後に起こり得る脳挫傷や脳出血、びまん性軸索損傷(DAI)などを含む様々な脳損傷のメカニズムを解説します。さらに、実際に病院で行われる診断手順(画像検査や神経心理学的検査)に触れ、どのように事故との因果関係を立証するかのポイントも示します。交通事故被害者やその家族が「なぜ頭を打っていないはずなのに脳に障害が残るのか」と戸惑うケースも少なくありませんが、事故の衝撃が脳を大きく揺さぶることによる微細損傷など、メカニズムを理解すれば適切な補償やリハビリにつながるでしょう。
Q&A
Q1:高次脳機能障害の原因として、いわゆる“びまん性軸索損傷(DAI)”というのを聞きましたが、どういうものですか?
びまん性軸索損傷(DAI)とは、頭部に強い加速度・減速度がかかった際に、脳内の神経軸索(ニューロンの軸索部分)が微細に断裂する損傷です。CTやMRIで大きく映らない場合も多いため、見た目には“異常なし”とされながら、実際には認知機能の低下が起こる要因となります。
Q2:頭部外傷を負った場合、すぐに脳出血が起きるケースと、遅れて出血するケースがあるのですか?
はい。事故直後に急性硬膜外出血や急性硬膜下出血が起こるケースもあれば、数日〜数週間遅れて慢性硬膜下血腫が発生する場合もあります。慢性硬膜下血腫は、高齢者など頭蓋内スペースがある方に多く、事故後しばらくして認知機能低下や頭痛が出始めることがあります。
Q3:脳挫傷というのは脳内でどのように損傷が起きているのですか?
事故の衝撃によって脳が頭蓋内壁にぶつかり、脳実質が挫滅(打ち付けられる)して内出血や神経細胞破壊を起こすのが脳挫傷です。前頭葉や側頭葉が損傷されると感情・行動・記憶などに影響が出やすく、高次脳機能障害へ移行する可能性があります。
Q4:医学的には画像に映らない軽傷でも、実際に高次脳機能障害が出ることがあるのでしょうか?
先述のDAIなど微細な損傷はMRIの一般的スキャンでは確認困難な場合があります。神経心理学検査などで機能的障害を裏付けていくことが重視されます。画像上異常がないからといって、高次脳機能障害を否定できるわけではありません。
Q5:神経心理学的検査とは具体的にどんな検査ですか?
WAIS-Ⅳ(知能検査)、WMS-R(記憶検査)、Trail Making Test(注意・遂行機能)、Stroop Test(注意・抑制力)など、様々な検査があります。専門の臨床心理士やリハビリ医師が評価し、どの認知機能がどの程度低下しているかを客観的に測定します。
Q6:事故との因果関係を証明するには、事故直後から脳損傷を疑う検査を受けていないと厳しいですか?
事故直後のCTやMRI、入院記録などがあれば因果関係が認められやすいですが、その後数ヶ月〜数年経ってから気づく例もあり、後日検査や心理テストで脳損傷の可能性を示すことも不可能ではありません。弁護士が医師や検査機関の協力を得て可能な限り立証を試みます。
解説
高次脳機能障害の主な原因
- 頭部外傷(外傷性脳損傷)
- 自動車やバイク事故で頭を強く打った、ヘルメットなしで転倒した、シートベルト未着用でダッシュボードに頭部を打ち付けた…など。
- 脳挫傷、硬膜下出血、硬膜外出血、びまん性軸索損傷(DAI)など多様な形態。
- 脳出血・脳梗塞
- 事故による血管損傷や動脈瘤破裂などで脳内出血を起こし、神経細胞が損傷されると高次脳機能障害を発症する場合がある。
- 二次的損傷
- 頭部外傷後の脳浮腫、低酸素状態などが引き金となり、結果的に脳機能が広範囲にダメージを受けることも。
- 事故直後の治療が不十分だと後遺障害が残りやすい。
診断のプロセス
- 画像検査(CT・MRI・fMRI)
- 急性期にCTやMRIで頭蓋内出血や脳挫傷を確認。慢性期にはfMRIやSPECTなど機能的画像検査で脳血流を調べる場合も。
- ただし映らない軽微損傷(DAIなど)もあるため、画像所見が全てではない。
- 神経心理学的検査
- WAIS-Ⅳ(知能・認知機能の全体測定)、WMS-R(記憶力評価)、Trail Making Test(注意・遂行機能)など複数の検査を組み合わせ、数値化して認知機能の低下を確認。
- 検査結果が事故前(推定値)との落差や年齢相応の標準値からの逸脱を示すと、脳機能障害を疑う根拠となる。
- 臨床評価と生活状況
- 医師や心理士が問診や家族からの聞き取りを行い、本人の性格変化、社会的行動障害の程度を評価。
- 仕事復帰困難や家事労働への影響度など、日常生活の実態が診断書に反映される。
高次脳機能障害と交通事故の補償・認定
- 後遺障害等級の取得
- 等級表の「神経系統の障害」を基準に、1級~9級あたりで認定例が多い。介護が必要な重度なら1~2級、軽度の記憶障害・注意障害なら9級~12級というイメージ。
- 事故との因果関係が争点となりやすく、早期から医療記録をしっかり残すことが重要。
- 介護・生活支援費用
- 重度の場合、家族による介護やヘルパー利用が長期にわたる。交通事故賠償では介護費として認められる可能性がある。
- 同居家族が介護する場合でも家族介護料が一定額認められる事例が多い。
- 逸失利益
- 高次脳機能障害により就労不能または就労制限が生じれば、労働能力喪失率を定め、逸失利益を計算。
- 若年被害者の場合、就労可能年数が長いほど金額が大きくなる。
弁護士に相談するメリット
- 症状の見落としを防ぐ
頭部外傷が軽微でも、弁護士が高次脳機能障害の疑いを把握し、専門医や神経心理学検査を勧めることで、的確な診断を得られる。 - 適切な後遺障害等級認定
専門医と連携し、画像検査や検査データを後遺障害診断書に反映させ、過小評価を防ぐ。 - 高額賠償を狙う
重度なら介護費用や将来逸失利益が数千万円~1億円規模になる事例もある。弁護士が示談金計算を裁判所基準で行い、保険会社と交渉。 - 因果関係の立証サポート
事故直後の記録や通院履歴を時系列で整理し、脳損傷と事故を結び付ける証拠を確保。否定されがちな軽度外傷でも丁寧に立証する。 - ストレス軽減
認知障害がある被害者や家族が保険会社と直接折衝するのは大きな負担。弁護士が代理してサポート。
まとめ
高次脳機能障害の原因・診断においては、
- 頭部外傷(脳挫傷、びまん性軸索損傷など)
- 脳出血(急性or慢性)
- 神経心理学的検査(WAIS-Ⅳ、WMS-Rなど)
などが大きく関わります。見た目や画像所見に異常がなくても、認知機能テストで障害が確認されれば後遺障害と認定され、高額賠償を得ることも可能です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、頭部外傷案件や高次脳機能障害の後遺障害認定に豊富な実績があり、専門医や神経心理学検査機関との連携で正確な診断をサポートします。もし事故後に「記憶力が落ちた」「集中できない」「性格が変わった」などの兆候があれば、早めにご相談ください。適切な補償を得るための第一歩となります。
その他のコラムはこちら|交通事故のコラム一覧
リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル
交通事故についてさらに詳しく知りたい方のために、当事務所では交通事故後の対応に役立つ解説動画を配信しています。ご興味がある方はぜひご視聴及びチャンネル登録をご検討ください。
初回無料・全国対応|お問い合わせはお気軽に
長瀬総合法律事務所では、ホームページからの予約、オンラインでの予約、電話、LINEといった複数のお問い合わせ方法をご用意しております。お好みの方法でお気軽にお問い合わせください。