高次脳機能障害における逸失利益の算定(就労困難度、労働能力喪失率など)

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はじめに

交通事故による頭部外傷が原因で高次脳機能障害を発症すると、記憶障害注意障害遂行機能障害など多面的な認知機能の低下が生じ、就労日常生活への重大な影響が出るケースがあります。その結果、被害者が事故前のように働くことが難しくなり、将来的な収入が大幅に減少するリスクが高まります。こうした経済的損失を補う賠償項目として重要なのが逸失利益です。

しかし、高次脳機能障害の逸失利益を算定するうえでは、就労困難度労働能力喪失率を正確に評価する必要があり、身体障害のように一目で分かる障害ではないため、保険会社と大きく争いになることが少なくありません。本稿では、高次脳機能障害の逸失利益に焦点を当て、算定の基本的な考え方や、どのように労働能力喪失率を立証するかを解説します。適正な後遺障害等級を得たうえで、その実態に見合った労働喪失率を主張し、保険会社の過小評価を防ぐことがポイントとなります。

Q&A

Q1:高次脳機能障害での逸失利益は、身体障害と比べて算定が難しいのですか?

はい、難しい傾向があります。視覚的に分かる身体障害とは異なり、高次脳機能障害は外見や画像所見に出にくい場合があり、本人の認知・行動障害が正確に評価されにくいです。そのため、適正な労働能力喪失率を得るには、神経心理学的検査や職場での実態を丁寧に立証する必要があります。

Q2:労働能力喪失率とは具体的にどう決まるのでしょう?

一般的には後遺障害等級に対応して、1級から3級ならば100%、4級ならば92%、5級ならば79%など裁判基準である程度の目安があります。ただし、高次脳機能障害では個別に実際どの程度働けなくなっているかを詳細に検討するケースもあります。

Q3:高次脳機能障害でも軽度の場合、そもそも逸失利益はほとんど認められないのでしょうか?

軽度でも集中力や記憶力の低下で事故前と同等の業務ができなくなり、職種変更や収入ダウンが生じる場合は、ある程度の労働能力喪失率が認められる可能性があります。9級や12級でも、個別事情を立証すれば就労困難度を高めに評価してもらえる例があります。

Q4:もし被害者が学生や専業主婦だったら、事故前の収入がないので逸失利益は請求できないのですか?

いいえ、請求できます。学生なら将来就職して得られるはずだった収入を賃金センサスなどで推定し、専業主婦なら家事労働の経済的価値を算定して労働能力喪失率を反映します。高次脳機能障害で家事や育児が困難になった場合も、主婦(家事従事者)としての逸失利益が認められます。

Q5:重度の場合、家族が介護をするなど日常生活も常時支援が必要ですが、それも逸失利益に関連しますか?

介護が必要なケースは、介護費用家族介護料を別項目で請求できます。逸失利益は主に本人の将来収入の減少を補填する項目ですが、重度の場合は1級や2級の高次脳機能障害認定で働くことができないと判断され、労働能力喪失率100%で計算される可能性があります。

Q6:保険会社が「認知障害があってもデスクワークなら働けるのでは」と言って、労働能力喪失率を低く見積もってきたら、どう対抗すればいいですか?

神経心理学的検査医師の意見書で「デスクワークでも注意障害や記憶障害により業務が困難」と立証する方法があります。職場復帰が試みられたが失敗したケースや、家族・職場の証言を収集して現実に働けない実態を強調することで、保険会社の過小評価に反論できます。

解説

労働能力喪失率の決定要素

後遺障害等級

  • 1級~2級
    常時介護が必要な重度障害 → 労働能力喪失率100%
  • 4級~5級
    社会復帰が大幅に制限される → 79~192%(事案により異なる)
  • 9級・12級
    軽度だが職種や作業によって支障が大きい場合 → 14~35%など、多様

症状の具体的影響

  • 記憶障害の程度、注意障害の深刻度、感情コントロール障害がどの程度就労を妨げるかを個別に評価
  • 事故後の復職状況や家族・職場の証言を交えて、客観的に示すほど認定が正当に近づく。

年齢・職業・学歴

  • 若年者なら就労可能年数が長く逸失利益が大きい、働き盛りの経営者・会社員なら高い年収の減少分が大きいなど、被害者属性も考慮。
  • 家事従事者(主婦)なら家事労働がどの程度できなくなったかを具体的に算定し、喪失率を決定。

逸失利益の計算方法

基礎収入

  • 事故前の給与所得事業所得がある場合は、その金額(または賃金センサス)を基礎収入とする。
  • 学生や無職であっても、学歴や平均賃金統計(賃金センサス)から収入を推定する。

労働能力喪失率

前述のとおり、後遺障害等級個別の障害実態から決定。被害者本人の就労状況や医師の意見など総合判断。

就労可能年数・ライプニッツ係数

  • 通常67歳までを基準とする
  • 係数(ライプニッツ係数)を用いて、将来の収入減額の現在価値を計算し、一時金としての賠償額を導く。

立証方法と保険会社対応

神経心理学的検査・医師の所見

認知障害の程度と就労困難度を示す主要資料。検査結果リハビリ経過を弁護士がまとめて保険会社に提出し、労働能力喪失率を高めに主張。

事故前後の収入実績や就労歴

  • 事故前は正社員で高収入 → 事故後、復職困難で減収なら、その差額を積算。
  • 自営業なら確定申告書売上推移、家事従事者なら家事労働の価値を賃金センサスで計算。

示談交渉や裁判での争点

  • 保険会社は「認知障害があっても軽作業なら可能では?」などと低い喪失率を主張する。
  • 弁護士が具体的仕事(マルチタスクを要する、集中力が必要など)の困難を証明し、高い喪失率を確保する。

弁護士に相談するメリット

  1. 医療ネットワークで検査・診断をサポート
    高次脳機能障害に理解がある専門医やリハビリ施設を紹介し、正確な診断と検査を受けられるよう導く。
  2. 適切な後遺障害等級を取得
    外見で分からない障害を神経心理学的検査日常生活状況の証拠で立証し、保険会社の過小評価を防ぐ。
  3. 労働能力喪失率を最大化
    被害者の仕事の特性や事故後の就労困難度を丁寧に説明し、高い喪失率を認めさせ、逸失利益を大幅に増額。
  4. 打ち切りや介護費用など総合交渉
    保険会社が治療費の早期打ち切りを図っても、弁護士が対抗。重度の場合の介護費用家族介護料も損害項目として主張。
  5. 弁護士費用特約の活用
    高次脳機能障害案件は長期・大規模化する可能性が高いが、特約があれば費用負担を軽減しつつ、弁護士に依頼できる。

まとめ

高次脳機能障害の逸失利益を算定するには、

  • MRIや検査データ
    脳損傷の客観的証拠
  • 神経心理学的検査
    記憶・注意・遂行機能障害を定量化
  • 医師の所見や日常生活の実態
    事故前後の変化を示し、就労困難度を確立
  • 労働能力喪失率
    後遺障害等級と個別事情を踏まえた数値で逸失利益を計算

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、高次脳機能障害で働けなくなった被害者や、その家族からのご相談に応じ、適切な後遺障害等級高い労働能力喪失率を目指す交渉を展開しています。もし記憶や注意力が低下し、事故前と同じ業務ができなくなったと感じる場合は、手遅れになる前にぜひご相談ください。

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