はじめに
交通事故後に「物忘れが激しくなった」「感情が不安定で落ち込みやすい」といった状態が生じた場合、それが高次脳機能障害によるものか、それとも認知症やうつ病など他の疾患によるものか、明確に区別することが重要です。特に高齢者の被害者では加齢性の認知症が進んでいる可能性がある一方、事故の外傷が原因で脳の損傷や心理的負荷を受けている可能性も否定できません。同様に、うつ症状が単なるストレス反応か脳損傷に伴う情緒障害か見極めが難しいケースもあります。
本稿では、高次脳機能障害と認知症・うつ症状を区別する際に着目すべきポイントや、医師による的確な診断の必要性を解説します。誤診が生じると事故との因果関係を立証できず、後遺障害認定や示談交渉で大きな不利益を被る恐れがあります。適切に受診し、専門家の協力を得ることで正しい診断と相応の賠償を目指しましょう。
Q&A
Q1:高齢の親が事故後に物忘れや無気力が目立つようになりました。加齢による認知症と何が違うのでしょう?
事故前までは比較的問題なく日常生活を送れていたのに、事故後に急激に症状が進行した場合、外傷性の脳機能障害が疑われます。脳神経外科や神経内科で画像検査や神経心理学検査を行い、脳損傷を確認することが大切です。加齢性認知症は進行が徐々であることが多いので、事故の影響か否かを切り分ける必要があります。
Q2:うつ病との区別が難しいという話を聞きましたが、具体的にはどう区別するのですか?
うつ病は主に抑うつ気分や意欲低下が中心ですが、高次脳機能障害による記憶・注意障害や遂行機能障害も意欲低下や無気力に見える場合があります。また、脳損傷が原因で感情コントロールがうまくいかずうつ状態が併発するケースも。医師が画像所見や神経心理学的検査、精神状態評価を総合して診断します。
Q3:交通事故がきっかけでうつ病を発症した場合も、後遺障害として認められるのでしょうか?
外傷性の脳損傷がなくても、事故による心理的トラウマでうつ病やPTSDを発症し、後遺障害として認められる例があります。ただし、高次脳機能障害とは別のカテゴリーで、「精神・神経の障害」としての等級認定になることもあります。医師の診断書と保険会社との交渉が必要です。
Q4:事故後に一度「認知症かもしれない」と診断されたら、高次脳機能障害として後遺障害を取るのは難しいですか?
最初の診断が認知症であっても、後に精密検査を行い「やはり脳損傷が原因の認知機能障害」と判明するケースがあります。セカンドオピニオンや専門医の意見を得て、事故と症状の因果関係を再検討すれば、後遺障害認定の可能性を残すことはありえます。
Q5:病院で「単なるストレス反応」と言われるばかりで検査してもらえない場合、どうすれば?
主治医に高次脳機能障害の疑いを具体的に伝え、必要な神経心理学的検査やMRIを希望することが重要です。それでも対応が難しい場合は、別の病院や専門外来へのセカンドオピニオンを検討しましょう。弁護士に相談すれば専門医を紹介してくれることもあります。
Q6:事故後すぐと半年後で診断が変わる場合がありますか?
あります。急性期には脳損傷が分からず「異常なし」となっていても、半年後に症状が表面化し検査すると高次脳機能障害と診断されることがあります。慢性期にMRIで脳萎縮が確認できるケースや、神経心理学検査で障害が判明するケースもあり得ます。
解説
高次脳機能障害と認知症の相違点
- 発症のタイミング
- 高次脳機能障害:交通事故など外傷性の脳損傷を契機として発症するのが典型。比較的急に認知機能が低下。
- 認知症(アルツハイマー型など):加齢や病気により脳内の変性が進み、徐々に発症することが多い。
- 年齢・事故前後の変化
- 高齢者なら既存の認知症が事故で進行したのか、新たな脳損傷によるものか見極めが難しい。
- 事故前の生活や認知機能が問題なかった場合、外傷性脳損傷の可能性が高い。
- 画像検査・認知検査
- 脳神経外科で事故による脳挫傷や血腫が見つかれば外傷性が示唆される。
- 神経心理学検査で特定領域の障害が著しいなら、外傷が原因の可能性が高い。認知症は全体的・緩徐に進む傾向。
高次脳機能障害とうつ症状の見極め
- うつ病との併発
- 事故後の辛さや痛み、社会的ストレスで二次的にうつ症状を呈する場合があり、高次脳機能障害による意欲低下と混同されやすい。
- 脳損傷に伴う感情コントロール障害も、うつ症状に似た振る舞いを示すことがある。
- 神経心理学検査の役割
- うつ病の場合も認知機能が低下することはあるが、検査の結果パターンが高次脳機能障害と異なる場合が多い。
- 結果パターンを熟知した医師や心理士の評価で区別が可能。
- MRI・脳波など補助検査
- うつ病は脳萎縮や軸索損傷が必ずしも認められないことが多いが、高次脳機能障害は事故由来の局所損傷やびまん性軸索損傷が疑われる。
- 弁護士が「外傷性うつ」や「脳外傷による症状」として因果関係を整理し、保険会社に主張する。
医師による的確な診断が必要な理由
- 後遺障害認定の可否
- 認知症やうつ病と診断されてしまうと、「事故による外傷」との因果関係が否定され、高次脳機能障害としての後遺障害等級取得が困難になる場合がある。
- 的確な診断で「外傷性脳損傷」に起因する認知障害だと立証できれば、適切な等級を狙える。
- 因果関係の立証
- 事故との因果関係を明確に示すには、画像所見や神経心理学的検査結果、事故前後の生活変化が重要。医師の的確な所見が不可欠。
- 弁護士の助言でセカンドオピニオンや専門外来を受診することで、誤診を避けるケースも多い。
- 治療・リハビリ方針
- 高次脳機能障害ならリハビリテーションや作業療法が効果的だが、単なるうつ病としての薬物療法だけでは十分に改善しないことも。
- 家族への対応指導や、職業復帰支援など、適切な医療・福祉サービスを受けるために正しい診断が必要。
弁護士に相談するメリット
- 医療ネットワーク
高次脳機能障害案件を多数扱う弁護士は、脳外傷専門医や神経心理学検査機関との繋がりがあり、セカンドオピニオンなどで誤診を避けられる。 - 後遺障害等級の取得
「認知症かもしれない」「うつ病かもしれない」と言われても、実際は外傷性の脳損傷による高次脳機能障害の可能性を弁護士が捉え、的確な診断書を作成。 - 保険会社の過小評価を抑止
保険会社が「加齢による認知症」「単なるうつ状態」と主張する場合、弁護士は事故との因果関係を打ち出し、高額な示談金を請求する。 - 長期リハビリや介護費用を確保
重度の場合、介護が必要になったり長期リハビリを要する。弁護士が保険会社の打ち切りを防ぎ、必要な費用を引き出す交渉を代行。 - 弁護士費用特約
高次脳機能障害は大規模賠償につながりやすいが、弁護士費用もかさむ。特約があれば自己負担を軽減してサポートを依頼可能。
まとめ
高次脳機能障害と認知症・うつ症状は症状が類似して混同されることがありますが、
- 発症タイミング
事故後に急激な変化があるなら外傷性を疑う - 画像検査・神経心理学的検査
事故由来の脳損傷を示唆する所見があるか - 医師の的確な診断
誤診で「認知症」「うつ病」とされると後遺障害認定が難しくなる場合も - 弁護士のサポート
正確な診断・因果関係立証を支え、高額賠償を求める
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、高齢者や事故後にうつ状態が見られる被害者のご家族からのご相談にも応じ、外傷性脳機能障害の可能性を慎重に検討し、必要な専門医へつなぐなど医療ネットワークを活かした支援を行っています。認知症やうつと誤解され、正当な賠償を得られない恐れがある場合は、ぜひお早めにご相談ください。
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