はじめに
交通事故、特にバイクや自転車での転倒事故や、歩行中に自動車にはねられた場合などは、身体の一箇所だけでなく、腕と足、首と腰など、複数の部位を同時に骨折してしまうことが少なくありません。
治療を尽くしても複数の箇所に後遺症が残ってしまった場合、後遺障害等級はどのように決まるのでしょうか。「足の障害が12級、手の障害が12級だから、合わせて24級?」あるいは「足して6級?」といった単純な計算にはなりません。
後遺障害等級制度には、複数の障害がある場合の計算ルールとして「併合(へいごう)」という仕組みが存在します。
この併合ルールは非常に複雑で、どのルールが適用されるかによって、最終的な等級(併合等級)が変わり、受け取れる賠償金の額が数百万、数千万円単位で変動することも珍しくありません。
本記事では、複数の部位を骨折し、複数の後遺症が残った場合に適用される「併合認定」の基本的なルールから、間違いやすい「系列(けいれつ)」の考え方、実務上の注意点について、交通事故に強い弁護士が分かりやすく解説します。
併合認定に関するQ&A
まずは、複数の怪我をした場合の後遺障害等級について、よくある疑問にQ&A形式でお答えします。
Q1:右腕の骨折で12級、左足の骨折でも12級に該当する場合、最終的な等級はどうなりますか?
ルールに基づき等級が繰り上がり、「併合11級」となります。
13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合、最も重い等級を1つ繰り上げる(重くする)というルールがあります。このケースでは、重い方(どちらも同じですが)の12級を1つ繰り上げて、11級と認定されます。
Q2:むちうちで14級、腰の骨折による痛みで14級が認定されました。合わせると13級になりますか?
いいえ、この場合は繰り上げられず、「併合14級」のままとなります。
最も軽い等級である14級に関しては、いくつあっても等級を繰り上げるというルールが適用されません。したがって、14級の障害が複数あっても、最終結果は14級となります。
Q3:腕の骨折で「関節の機能障害(動きが悪い)」と「変形障害(曲がってくっついた)」の両方が残りました。これも併合されますか?
原則として併合されず、上位の等級がそのまま認定されるか、あるいは別の評価方法がとられます。
同一の部位(この場合は同じ腕)に生じた障害については、併合ではなく「派生(はせい)」や「加重(かじゅう)」といった別の関係として扱われることが多く、単純な併合ルールが適用されない場合があります(詳細は後述の「系列」の項目で解説します)。
解説:後遺障害等級「併合」の基本ルール
交通事故で複数の部位に後遺障害が残った場合、それぞれの部位ごとに等級を判断した上で、「併合(へいごう)」という処理を行って最終的な等級を決定します。
併合処理には、主に「併合繰上げ(等級が重くなる)」と「併合維持(等級が変わらない)」の2つのパターンがあります。
1. 併合繰上げ(等級が重くなるケース)
認定された等級のうち、最も重い等級を基準にして、以下のルールに従って等級を繰り上げます。
① 13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合 ⇒ 最も重い等級を「1級」繰上げる
- 【例】12級(手首の痛み) + 12級(足首の痛み)
⇒ 重い方の12級を1つ繰り上げて、「併合11級」となります。 - 【例】10級(腕の可動域制限) + 12級(骨折部の変形)
⇒ 重い方の10級を1つ繰り上げて、「併合9級」となります。
② 8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合 ⇒ 最も重い等級を「2級」繰上げる
- 【例】8級(肘関節の用廃) + 8級(膝関節の用廃)
⇒ 重い方の8級を2つ繰り上げて、「併合6級」となります。 - 【例】6級(腕の欠損) + 8級(脚の短縮)
⇒ 重い方の6級を2つ繰り上げて、「併合4級」となります。
③ 5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合 ⇒ 最も重い等級を「3級」繰上げる
- 【例】5級(片足の全廃) + 5級(片腕の全廃)
⇒ 重い方の5級を3つ繰り上げて、「併合2級」となります。
※ただし、繰り上げの結果、等級が1級を超えることはありません。また、それぞれの障害ごとの賠償額の合計が、繰り上げ後の等級の賠償額を上回るような逆転現象が起きる場合は、調整が行われることがあります。
2. 併合維持(等級が変わらないケース)
以下のパターンの場合、等級の繰り上げは行われず、最も重い等級がそのまま最終的な等級(併合等級)となります。
14級の後遺障害が含まれる場合
14級は後遺障害の中で最も軽い等級であり、これがいくつあっても上位等級への繰り上げは行われません。
- 【例】14級(首の神経症状) + 14級(腰の神経症状)
⇒ 「併合14級」(13級にはなりません) - 【例】12級(腕の骨折後の痛み) + 14級(首の神経症状)
⇒ 「併合12級」(14級は計算上、吸収される形になります)
3. 注意が必要な「系列(けいれつ)」の概念
併合の計算をする際、最も注意しなければならないのが「系列(けいれつ)」という考え方です。
後遺障害等級表では、身体の部位や機能ごとにグループ分け(系列)がされています。
- 原則: 「異なる系列」の障害は併合する。
- 例外: 「同一系列」の障害は、併合ではなく、その部位全体として総合的に評価する(評価方法が異なる)。
同一系列とみなされる例
- 両眼の障害
右目の視力低下と左目の視力低下は、それぞれ別々に等級を出すのではなく、「両眼の視力障害」として定められた等級表(例:両眼の視力が0.1以下なら6級)を直接適用します。 - 同一上肢(腕)の障害
「右肩の機能障害(12級)」と「右手首の機能障害(12級)」は、同じ「右上肢」という系列です。この場合、単純な併合繰上げ(11級)ではなく、併合した結果が序列を乱さないか等の調整が入ることがあります。
派生関係にある場合
「骨折による変形障害(12級)」と、その変形部分が神経を圧迫して生じている「神経症状(12級)」は、通常、別々の障害とはみなされません。
「通常派生する関係」にあるため、これらは包括的に評価され、上位の等級(この場合は12級)のみが認定されます。
実例で見る併合計算シミュレーション
より理解を深めるために、よくある交通事故のケースでシミュレーションしてみましょう。
ケースA:バイク事故で右足と腰を負傷
- 障害1: 右足首の機能障害(可動域が健側の3/4以下) ⇒ 12級7号
- 障害2: 腰椎圧迫骨折による変形障害 ⇒ 11級7号
【計算結果】
- どちらも「13級以上」の障害です。
- したがって、重い方の等級(11級)を1つ繰り上げます。
結果:併合10級
ケースB:歩行中に跳ねられ、全身を打撲・骨折
- 障害1: 左大腿骨骨折後の脚の短縮(1cm以上) ⇒ 13級8号
- 障害2: むちうちによる首の痛み ⇒ 14級9号
- 障害3: 鎖骨骨折後の変形障害 ⇒ 12級5号
【計算結果】
- 3つの障害があります。
- まず、14級(障害2)は繰上げの計算に入りません。
- 次に、13級(障害1)と12級(障害3)を見ます。これらはどちらも「13級以上」です。
- したがって、最も重い等級(12級)を1つ繰り上げます。
結果:併合11級(14級は併合11級の中に含まれる形で処理されます)
ケースC:重度の後遺障害が複数残った場合
- 障害1: 右腕の全廃(用を廃したもの) ⇒ 5級6号
- 障害2: 右足の全廃(用を廃したもの) ⇒ 5級7号
【計算結果】
- どちらも「5級以上」の障害です。
- したがって、重い方の等級(5級)を3つ繰り上げます。
結果:併合2級
実務上の注意点と弁護士の役割
併合認定は自動的に正しく行われるとは限りません。被害者の方が損をしないために、実務上注意すべきポイントがあります。
1. 「併合」と「既存障害(素因減額)」の違い
今回認定された等級が「併合」によるものなのか、それとも元々持っていた障害(既存障害)を加味して調整されたものなのかを区別する必要があります。
例えば、以前の事故で14級を持っていて、今回の事故で新たに別の14級相当の怪我をした場合、結果は「併合14級」ですが、保険会社によっては「既に14級があったのだから、新たな支払いは不要」といった主張をしてくることがあります(これを「加重障害」の計算といいます)。
正しいルールが適用されているか、専門家のチェックが必要です。
2. 「みなし系列」や「派生関係」の誤った適用
保険会社側は、複数の症状を「別々の障害」として併合認定するのではなく、「一つの原因から派生した一連の症状」としてまとめて扱い、低い等級で認定してくる場合がありえます。
例えば、「骨折による痛み」と「可動域制限」を別々に評価せず、「可動域制限の中に痛みも含まれる」として、低い方の等級を無視するケースなどです。
弁護士は、それぞれの症状が独立した評価対象であることを医学的・法的に主張し、正しい併合等級の獲得を目指します。
3. 賠償額の大幅な違い
等級が1つ違うだけで、賠償額(特に後遺障害慰謝料と逸失利益)は大きく変わります。
併合のルールを適用して12級が11級になれば、弁護士基準の慰謝料だけでも290万円から420万円へと増額します。逸失利益を含めればその差はさらに広がります。
「たかが1級の違い」と思わず、適正な計算がなされているかを確認することが重要です。
まとめ
複数部位の骨折における後遺障害等級の認定は、単なる足し算ではなく、複雑な「併合ルール」に基づいて決定されます。
- 基本は「繰上げ」: 13級以上が2つなら1級アップ、8級以上なら2級アップ。
- 14級の壁: 14級はいくつあっても繰り上がらない。
- 系列の罠: 同じ部位や関連する機能の障害は、単純な併合にならないことがある。
ご自身の症状が最終的にどの等級になるのか、保険会社の提示している等級や賠償額が正しい計算に基づいているのかを判断するのは、一般の方には困難です。
複数の部位にお怪我をされた方は、適正な補償を受け取るためにも、示談をする前に一度、交通事故に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、複雑な後遺障害事案の解決実績が豊富にあります。
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