はじめに
交通事故による後遺障害等級において、第3級と第5級は「別表第2」という区分の上位に位置する重篤な障害です。
- 第3級: 生命維持に必要な日常動作はほぼ可能だが、一生涯、労務に服することができないもの。
- 第5級: 特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの。
これらは、視力や聴力の喪失、手足の欠損・機能全廃といった身体的な障害だけでなく、脳損傷による「高次脳機能障害」で認定されるケースが多く見られます。
被害者ご本人は「以前と同じように動けない、考えられない」という喪失感に苦しみ、ご家族は「一見元気そうに見えるが、目が離せない」という特殊なケアに追われることになります。しかし、保険会社は「別表第1(要介護等級)ではない」という理由で、将来の介護費用を否定する傾向にあります。
適正な賠償を受け、将来の生活基盤を整えるためには、これらの等級の特殊性を正しく理解し、粘り強く交渉する必要があります。
交通事故に関するQ&A(3級・5級編)
まずは、3級・5級の認定や補償について、よくある疑問にお答えします。
Q1:3級・5級でも、将来の介護費用(付添看護費)は請求できますか?
原則は認められませんが、障害の内容によっては裁判等で認められる可能性があります。
自賠責保険の基準では、介護費用が支払われるのは「別表第1(1級・2級)」のみとされています。そのため、3級・5級(別表第2)の場合、保険会社は「介護費用は支払わない」と主張します。
しかし、高次脳機能障害などで、身体は動いても認知機能が低下し、外出時の付き添いや家庭内での見守り(声掛け、火の不始末の防止など)が必要な場合は、裁判実務において「将来介護費」が認められるケースがあります。これを認めてもらうには、弁護士による緻密な立証が不可欠です。
Q2:3級と5級の損害賠償額はどれくらい違いますか?
数千万円単位で異なる場合があります。
特に大きく異なるのが「労働能力喪失率」です。
- 3級:100%喪失(全く働けない前提)
- 5級:79%喪失(限定的な仕事しかできない前提)
この8%の差は、若年者や高収入の方ほど大きな金額差(逸失利益の差)となります。また、後遺障害慰謝料の基準額(弁護士基準)も、3級は1,990万円、5級は1,400万円と差があります。
Q3:高次脳機能障害で3級認定されました。社会復帰は可能でしょうか?
一般就労への復帰は極めて困難なのが現実です。
3級の定義は「一生涯、労務に服することができない」です。高次脳機能障害の場合、新しいことを覚えられない(記憶障害)、計画的に行動できない(遂行機能障害)、感情を抑制できない(社会的行動障害)といった症状により、以前の職場に戻っても業務を遂行できないケースが大半です。
無理をして復職し、トラブルになって退職を余儀なくされるよりも、「就労は困難である」という前提で十分な逸失利益(休業補償の代わりとなる将来分の賠償)を確保することが、生活の安定には重要です。
解説:後遺障害3級・5級の実態と法的留意点
ここからは、具体的な認定基準や、3級・5級特有の賠償問題について深掘りして解説します。
1. 後遺障害3級・5級の認定基準(別表第2)
3級・5級は多岐にわたる障害を含みますが、ここでは代表的なものを紹介します。
第3級の主な認定基準
- 3級1号: 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
- 3級2号: 咀嚼(そしゃく)または言語の機能を廃したもの(言葉が全く話せない、流動食しか食べられない等)
- 3級3号: 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの(重度の高次脳機能障害など)
- 3級5号: 両手の手指の全部を失ったもの
第5級の主な認定基準
- 1号 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
- 2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 3号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することが出来ないもの
- 4号 一上肢を手関節以上で失ったもの
- 5号 一下肢を足関節以上で失ったもの
- 6号 一上肢の用を全廃したもの
- 7号 一下肢の用を全廃したもの
- 8号 両足の足指の全部を失ったもの
解説のポイント
「3級3号」と「5級2号」などの神経系統の障害は、MRIなどの画像所見に加え、日常生活状況や各種検査結果(知能検査等)を総合して判定されるため、等級認定の段階で非常に揉めやすい部分です。
2. 「労働能力喪失率」と逸失利益の最大化
交通事故の賠償金において、3級・5級の事案で最も金額が大きくなるのが「逸失利益」です。
これは、「事故がなければ将来稼げたはずのお金」のことです。
3級と5級の決定的違い
- 3級:労働能力喪失率 100%
完全に働く能力が失われたとみなされます。事故前の年収が全額、就労可能年数分(原則67歳まで)補償されます。 - 5級:労働能力喪失率 79%
「21%分は働ける」とみなされます。しかし、実際には5級レベルの障害(両手指の全廃や著しい高次脳機能障害など)を負って、事故前と同じように稼ぐことは困難です。
【弁護士の視点:5級でも100%を狙う】
形式的には79%ですが、具体的な障害の内容や職種によっては、「事実上、全く働くことができない」と主張し、裁判で100%の喪失率を認めさせる交渉を行います。
3. 「将来介護費」の請求
前述の通り、自賠責保険の定型的な基準では、3級・5級には介護費用が計上されません。しかし、実生活では家族のサポートが不可欠なケースがあります。ここが弁護士の腕の見せ所です。
なぜ「介護」が必要なのか(高次脳機能障害の例)
高次脳機能障害で3級や5級となると、以下のような症状が現れることがあります。
- 記憶障害: 直前のことを忘れ、何度も同じ質問をする。薬の管理ができない。
- 注意障害: 料理中に火を点けたまま忘れる。信号を見落として道路に飛び出す。
- 遂行機能障害: 物事の段取りができず、着替えや入浴に何時間もかかる、あるいは指示されないと何もできない。
- 社会的行動障害: 感情のコントロールが効かず、家族や他人に暴言・暴力を振るう。
これらは、食事や排泄といった身体的な介助は不要でも、「24時間の見守り・監視」や「行動の指示・誘導」という精神的な介護を必要とします。
裁判で「随時介護費」を勝ち取るために
裁判所は、等級の数字(3級か1級か)だけでなく、「具体的な生活実態」を見て判断します。
3級・5級であっても、以下のような証拠を積み上げることで、日額数千円〜の将来介護費が認められる可能性があります。
- 陳述書・介護日誌: 家族が毎日どのようなサポートを行っているか(声掛けの回数、トラブルの処理、見守りの時間)を詳細に記録したもの。
- 主治医の意見書: 医学的な観点から「単独での生活は危険である」「見守りが必要である」という意見。
- ホームヘルパー等の利用実績: 実際に福祉サービスを利用している事実。
注意点
保険会社は「それは家族の協力義務の範囲内だ」「身体は動くのだから介護費は不要だ」と強く反論してきます。これに対抗するには、過去の類似裁判例(3級や5級で介護費を認めた判例)を引用した法的主張が必要です。
4. 住宅改造費や福祉用具の請求
車椅子生活となる脊髄損傷(不全麻痺など)や、両足欠損などの場合、自宅のバリアフリー化が必要になります。
- 家屋改造費: スロープ設置、手すりの取り付け、トイレの拡張など。
- 自動車改造費: 運転補助装置の取り付け(手動運転装置など)や、福祉車両への買い替え。
3級・5級であっても、具体的な障害により必要性が認められれば請求可能です。ただし、「便益向上(より快適にするため)」ではなく、「必要不可欠である」ことの証明が求められます。
弁護士に相談するメリット
後遺障害3級・5級の事案は、被害者側と保険会社側で、認識や提示額に大きな乖離が生まれやすい分野です。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットが得られます。
1. 適正な「等級」の獲得
後遺障害等級は、少しの判断の違いで等級が変わります。
例えば、高次脳機能障害において「3級(労働能力喪失率100%)」か「5級(労働能力喪失率79%)」かは、賠償額に数千万円の差をもたらします。
医師任せにするのではなく、弁護士が診断書の内容をチェックし、日常生活報告書の記載方法をアドバイスすることで、実態に見合った上位等級(3級以上)の認定を目指します。
2. 「将来介護費」の可能性を模索できる
個人で交渉した場合、保険会社が3級・5級の事案で将来介護費を提示することはまずありません。ゼロです。
弁護士であれば、前述の通り裁判基準を用いて、「見守り介護」の必要性を主張し、将来にわたる介護費用の獲得に挑戦できます。たとえ少額の日額設定であっても、平均余命までの期間となれば、総額は数千万円になります。
3. 将来の生活設計へのアドバイス
賠償金はゴールではなく、その後の長い人生を支えるための原資です。
当事務所では、成年後見制度の利用検討や、賠償金の管理方法(信託の利用など)についても、提携する専門家と共にサポート体制を整えています。特に高次脳機能障害で金銭管理ができなくなった場合、誰がどのように財産を守るかは非常に重要な問題です。
まとめ
後遺障害3級・5級は、自賠責保険の区分では「要介護等級」に含まれませんが、実態としては社会復帰が極めて困難であり、ご家族による手厚いサポートを必要とする重度な障害です。
- 3級・5級の実態: 労働能力の79%〜100%を喪失し、経済的自立は困難。
- 隠れた争点: 高次脳機能障害などの「見守り」に対する将来介護費の請求。
- 解決の鍵: 等級認定の正確性と、生活実態の詳細な立証。
「保険会社の提示額は、自賠責基準や任意保険基準に過ぎない」ということを忘れないでください。
被害者ご本人の将来の生活を守り、介護を担うご家族の負担を少しでも軽減するために、適正な賠償金(弁護士基準)を獲得することは正当な権利です。
これからの生活に不安を感じておられる方は、示談書にサインをする前に、ぜひ一度、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が、皆様の事情に合わせた解決策をご提案いたします。
その他のコラムはこちら|交通事故のコラム一覧
リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル
交通事故についてさらに詳しく知りたい方のために、当事務所では交通事故後の対応に役立つ解説動画を配信しています。ご興味がある方はぜひご視聴及びチャンネル登録をご検討ください。
初回無料・全国対応|お問い合わせはお気軽に
長瀬総合法律事務所では、ホームページからの予約、オンラインでの予約、電話、LINEといった複数のお問い合わせ方法をご用意しております。お好みの方法でお気軽にお問い合わせください。
