はじめに
後遺障害等級第8級は、身体の各部位(脊柱、手足の関節、指など)に、明確な「機能障害」や「欠損」が残った場合に認定されます。
特に多いのが、骨折後の癒合不全や関節拘縮により、「腕や足の関節がスムーズに動かない(可動域制限)」ケースや、背骨の圧迫骨折等により「首や腰の動きが悪くなる(運動障害)」ケースです。
これらは、一見すると普通に生活しているように見えますが、実際には「重いものが持てない」「長時間立っていられない」「高いところに手が届かない」といった具体的な支障があり、労働能力の約半分(45%)を喪失したとみなされる重大な障害です。
適正な賠償を受けるためには、医学的な数値(可動域角度)の正確な測定と、具体的な仕事・生活への支障の立証が鍵となります。
交通事故に関するQ&A(8級編)
後遺障害8級について、被害者の方からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1:後遺障害8級の慰謝料はどれくらいですか?
弁護士基準では830万円が目安です。
自賠責保険の基準では331万円が上限ですが、弁護士が介入して交渉する「弁護士基準(裁判基準)」では、約830万円が相場となります。これだけで約500万円の差があり、さらに逸失利益が加算されるため、最終的な受取額には大きな開きが出ます。
Q2:関節が動かしにくいのですが、医師からは「リハビリで良くなる」と言われています。
症状固定のタイミングを慎重に判断する必要があります。
リハビリを続けても改善が見込めなくなった状態を「症状固定」と言います。8級に認定されるには、関節の可動域が「健側(怪我をしていない側)の2分の1以下」などの厳しい数値基準を満たす必要があります。
無理に早期に症状固定とせず、十分なリハビリを行った上で、それでも可動域制限が残った場合に、正確に後遺障害診断書を作成してもらうことが重要です。
Q3:主婦ですが、家事に支障が出ています。休業損害や逸失利益は請求できますか?
はい、請求できます。
主婦(主夫)の方も、家事労働という経済的価値のある労働を行っているとみなされます。8級の障害(関節が曲がりにくい等)があれば、掃除、洗濯、料理などの家事全般に支障が出ることは明らかです。
原則として、女性の平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とし、労働能力喪失率45%を用いて計算した逸失利益を請求できます。
解説:後遺障害8級の認定基準と「可動域制限」の壁
8級は多岐にわたる障害を含みますが、ここでは特にトラブルになりやすい「関節機能障害」と「脊柱障害」を中心に解説します。
1. 後遺障害8級の主な認定基準
- 8級1号: 一眼が失明し、または一眼の視力が0.02以下になったもの
- 8級2号: 脊柱(背骨)に運動障害を残すもの
- 8級3号: 片手を含み2本以上の指を失ったもの(親指の場合)
- 8級6号: 片手の上肢(肩・肘・手首)の三大関節中の1関節の用を廃したもの
- 8級7号: 片足の下肢(股・膝・足首)の三大関節中の1関節の用を廃したもの
- 8級8号: 片手の上肢の偽関節を残すもの(骨がくっつかずグラグラする状態)
- 8級9号: 片足の下肢の偽関節を残すもの
- 8級10号:片足の指を全部失った場合
2. 「関節の用を廃したもの」(6号・7号)とは?
ここで言う「用を廃した」とは、全く動かない(完全強直)状態だけでなく、以下の状態も含みます。
- 関節の可動域が、健側(健康な側)の可動域の10%以下になった場合
- 関節の可動域が、健側の可動域の2分の1以下になり、かつ激しい痛みがあるなどの条件を満たす場合(※ただし、単に2分の1以下になっただけでは10級や12級になることが多く、8級認定には「完全強直に近い状態」や「人工関節・人工骨頭を挿入し、かつ可動域が2分の1以下」などの厳しい条件があります)
注意点
8級の認定において重要なのは、医師による「他動値(医師が手を添えて動かした時の角度)」の測定です。
被害者が自分で動かせる範囲(自動値)だけでは認定されません。無理やり動かしてもこれ以上行かない、という限界値を正確に測定してもらう必要があります。数度の違いで等級が下がる(10級や12級になる)こともあるため、専門知識のある弁護士のサポートが推奨されます。
3. 「脊柱の運動障害」(2号)とは?
背骨の圧迫骨折や脱臼などにより、首や腰が曲がりにくくなった状態です。
具体的には、「頸部(首)や胸腰部(背中〜腰)の可動域が、参考可動域角度の2分の1以下に制限されたもの」を指します。
- 上を向けない、下を向けない
- 身体を前後に曲げられない、ひねることができない
これにより、建設作業や運送業などの肉体労働はもちろん、デスクワークでも「長時間同じ姿勢を保つのが辛い」「モニターを見るために首を動かせない」といった支障が生じます。
4. 労働能力喪失率45%と「逸失利益」
8級の労働能力喪失率は45%です。これは、事故前の年収の約半分が将来にわたって失われるという計算になります。
【争点になりやすいポイント】
保険会社は以下のような主張で減額を迫ることがあります。
- 「事務職だから、足首が動かなくても仕事には影響しないはずだ」(職種による限定説)
- 「機能障害はリハビリで慣れるため、喪失期間は10年程度に制限すべきだ」
これに対し、弁護士は以下のように反論します。
- 「事務職でも外回りや移動はあり、通勤の負担も増大している」
- 「脊柱の可動域制限や関節の強直は器質的損傷(身体そのものの変化)であり、将来回復することはなく、慣れで解決する問題ではない」
- 「昇進や転職の機会が失われるリスクがある」
このように主張し、「67歳までの全期間」にわたって45%の逸失利益を認めさせることが、賠償額最大化の鍵となります。
具体的な影響の例(仕事・家事)
8級の障害が生活にどのような影を落とすのか、具体例を挙げます。
① 上肢(腕・手)の障害
- 仕事: 重い荷物が持てない、高いところの作業ができない、キーボード入力で手首が痛む、工具が扱えない。
- 家事: 洗濯物が干せない、布団の上げ下ろしができない、高い棚の物が取れない、料理でフライパンが振れない。
② 下肢(足)の障害
- 仕事: 立ち仕事ができない、階段の上り下りが困難、営業車やトラックの運転(ペダル操作)に支障がある、長時間座っていられない(膝が曲がらない等)。
- 家事: 掃除機がかけられない、買い物に行けない(歩行困難)、お風呂掃除などのしゃがむ動作ができない。
③ 脊柱(背骨)の障害
- 仕事・家事共通: 重いものが持てない、うがいや洗顔の姿勢が取れない、車のバック駐車で後ろを振り向けない、長時間座っていると背中に激痛が走る。
弁護士に相談・依頼するメリット
後遺障害8級は、「等級が認定されるかどうか」と「認定後の賠償額交渉」の2段階で、弁護士の役割が極めて重要になります。
1. 正確な「可動域測定」のサポート
医師は治療の専門家ですが、後遺障害等級認定のプロではありません。測定方法が「日本整形外科学会」の定めた基準と少しでもずれていると、適正な等級が認定されないことがあります。
弁護士は、後遺障害診断書を作成する前に、「正しい測定方法」や「記載すべきポイント」を医師に伝えるためのアドバイスを行います。また、出来上がった診断書をチェックし、記載漏れがないか確認します。
2. 「加重障害」や「併合等級」の確認
過去に交通事故や労災で障害を負っていた場合(既存障害)、今回の事故による障害と合わせてどのように評価するか(加重障害)、また今回複数の箇所を怪我した場合に等級をどう繰り上げるか(併合等級)といった判断は非常に複雑です。
専門知識を持つ弁護士が、最も有利になる等級の認定方法を検討します。
3. 逸失利益と慰謝料の最大化
8級の賠償金は、適正に算定されれば数千万円規模になります。
保険会社の提示額(自賠責基準や任意保険基準)と、弁護士が請求する額(裁判基準)との差額は、1,000万円以上になることも珍しくありません。
特に、将来の生活費の原資となる「逸失利益」については、安易な妥協は禁物です。
まとめ
後遺障害8級は、手足や背骨の機能が大幅に制限され、労働能力の約半分(45%)を失う深刻な障害です。
- 認定の鍵: 関節可動域の正確な測定(他動値)。
- 賠償の焦点: 職種に関わらず、将来にわたる労働能力喪失(逸失利益)をしっかり主張すること。
- 生活への影響: 仕事だけでなく、家事や日常生活動作にも具体的な支障が出る。
「リハビリをすれば治るかもしれない」という言葉に流されず、症状固定の時期を適切に見極め、後遺障害申請を行うことが重要です。また、保険会社からの提示額に対しては、「本当に将来の補償として十分か」を慎重に検討する必要があります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、交通事故による機能障害に苦しむ被害者の方が、適正な等級と賠償金を獲得できるよう、医学的知見に基づいたサポートを提供しています。
ご自身の症状が何級に相当するのか、賠償額はどれくらいになるのか、まずは無料相談にてお問い合わせください。
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