【交通事故】物損事故から人身事故への切り替え方法は?手続きと期限、メリット・デメリットを弁護士が解説

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はじめに

交通事故に遭った直後、目立った外傷がなく痛みも感じなかったため、「物損事故(物件事故)」として警察に届け出をしてしまうケースは非常に多くあります。しかし、数時間後、あるいは翌日になってから首や腰に痛みが出たり、吐き気やしびれを感じたりすることは、むちうち(頚椎捻挫)等の典型的な症状として珍しくありません。

このように後から怪我が発覚した場合、そのまま物損事故として処理を続けてもよいのでしょうか?

結論から申し上げますと、速やかに「人身事故」への切り替え手続きを行うべきです。

物損事故のままにしておくと、本来受け取れるはずの治療費や慰謝料が支払われなかったり、過失割合の交渉で不利になったりと、被害者にとって計り知れない不利益が生じる可能性があります。また、相手方の保険会社から「治療費を払うので物損のままでいい」と提案されることもありますが、これにも法的リスクが潜んでいます。

この記事では、一度「物損事故」として処理された事故を「人身事故」に切り替えるための具体的な手続き、期限、そしてなぜ切り替えが必要なのかというメリット・デメリットについて解説します。

物損から人身への切り替えに関するQ&A

まずは、物損事故から人身事故への切り替えに関して、被害者の方から多く寄せられる疑問にQ&A形式でお答えします。

Q1:切り替え手続きには期限がありますか?

法律上の明確な期限はありませんが、実務上は「事故から1週間〜10日以内」が目安です。

法律で「何日以内に届け出なければならない」と決まっているわけではありません。しかし、事故から長期間(例えば2週間以上)経過してから診断書を提出しても、警察は「その怪我が本当にあの事故によるものなのか(因果関係)」を疑います。その結果、切り替えの届け出を受理してもらえないケースが増えます。痛みを感じたら、1日でも早く病院に行き、診断書を持って警察署へ行くことが重要です。

Q2:加害者が「免許の点数が引かれるのが困るから、物損のままにしてほしい」と頼んできました。応じてもいいですか?

応じるべきではありません。被害者にとってのリスクが大きすぎます。

加害者側の事情(免停回避や刑事処分の回避)で物損扱いを求められることはよくあります。「治療費などの補償はきちんとするから」と言われても、口約束が守られる保証はありません。

もし後遺障害が残った場合、物損事故扱いだと「実況見分調書」が作成されていないため、事故状況の立証が難しく、適切な等級認定や賠償金を受け取れない可能性があります。情に流されず、事実に基づいて人身事故として処理すべきです。

Q3:警察に行かずに、保険会社に連絡するだけで人身扱いにできますか?

補償上は可能ですが(人身事故証明書入手不能理由書)、正式な切り替えをお勧めします。

やむを得ない事情で警察での切り替えができなかった場合でも、保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」という書類を提出することで、治療費や慰謝料の支払いを受けることは可能です(これを「人身扱い」と呼びます)。

しかし、この方法では警察の公式記録は「物損事故」のままであり、詳細な事故状況を記録した「実況見分調書」は作成されません。過失割合で揉めた際に証拠が不足するリスクがあるため、原則としては警察での正式な切り替え手続きを行うべきです。

解説:物損事故から人身事故への切り替え手続き【完全ステップ】

実際に物損事故から人身事故へ切り替えるための手順を解説します。

Step 1:病院(整形外科)を受診し診断書を取得する

まず何よりも先に、医師の診察を受ける必要があります。整骨院ではなく、「整形外科」などの医療機関を受診してください。

医師に対し、事故の状況と現在の症状を詳しく伝え、「交通事故用の診断書(警察提出用)」を作成してもらいます。

注意点
診断書には「全治〇日(週間)」等の記載が必要です。また、事故日と初診日が空きすぎると事故との因果関係を否定されるため、できるだけ早期に受診してください。

Step 2:事故現場を管轄する警察署へ連絡する

診断書を取得したら、事故処理を担当した警察署(交通課)に電話をかけます。

「〇月〇日の事故の件ですが、痛みが出たので病院に行き診断書をもらいました。人身事故への切り替えをお願いしたいので、伺ってもよろしいでしょうか」と伝え、訪問のアポイントを取ります。担当した警察官が不在の場合もあるため、事前の電話連絡をしておきましょう。

Step 3:警察署へ行き、診断書を提出・実況見分を行う

指定された日時に警察署へ行き、診断書を提出します。

人身事故として受理されると、改めて「実況見分(じっきょうけんぶん)」が行われます。

これは、事故現場で警察官立ち合いのもと、事故当時の状況(車の位置、スピード、衝突場所など)を確認する手続きです。

持ち物
・医師の診断書(原本)
・運転免許証
・印鑑
・事故車両(修理に出していなければ)
・その他警察から指示されたもの

Step 4:自身の保険会社へ連絡する

警察での手続きが完了したら、自身が加入している保険会社(および相手方保険会社)に「人身事故に切り替えました」と報告します。これにより、人身事故としての補償手続き(治療費の支払い対応や慰謝料の算定など)が本格的にスタートします。

解説:人身事故に切り替えるメリット・デメリット

「怪我が軽いなら物損のままでもいいのでは?」と迷う方もいるかもしれませんが、法的な観点からは人身事故への切り替えを強く推奨します。その理由をメリット・デメリットの側面から解説します。

【メリット】なぜ人身事故にする必要があるのか?

1. 正当な「自賠責保険」の適用対象となる

交通事故の基本的な補償である「自賠責保険」は、人身事故(身体への損害)を対象とした保険です。人身事故として処理されることで、治療費、休業損害、慰謝料などに対し、自賠責保険の限度額(傷害部分で120万円)までの支払いが担保されます。相手方が任意保険に入っていない場合や、支払いを拒否した場合でも、被害者請求という手続きが可能になります。

2. 「実況見分調書」が作成される(過失割合の証拠)

これが実務的メリットです。

人身事故の場合、警察は詳細な事故状況を記録した「実況見分調書」を作成します。この書類には、ブレーキ痕の長さ、衝突地点、双方の言い分などが詳細に記されており、後の示談交渉や裁判において、過失割合を決定する際の重要な証拠となります。

一方、物損事故の場合は簡易な「物件事故報告書」しか作成されず、事故状況の詳細な記録が残りません。もし相手が「あなたが信号無視をした」と嘘をついた場合、それを覆す証拠がないため、不利な過失割合を押し付けられるリスクが高まります。

3. 治療費の打ち切りリスクを軽減できる

物損事故扱いのままで保険会社対応のみ「人身扱い」にしている場合、保険会社から「軽微な事故(=物損扱いになる程度の事故)なのだから、長期の治療は不要なはずだ」と判断され、早期に治療費の打ち切りを通告される傾向があります。正式に人身事故として警察に届け出ていれば、「警察も怪我を確認している事故である」という主張の補強になります。

4. 適切な「慰謝料」が受け取れる

入通院慰謝料は、治療期間や実通院日数に基づいて計算されます。人身事故として処理されていれば、堂々と治療期間に応じた慰謝料を請求できます。

【デメリット】注意すべき点はあるか?

被害者側にとっての法的なデメリットは基本的にありませんが、以下の点に留意する必要があります。

1. 実況見分への立ち会いが必要(手間がかかる)

再度現場に行き、警察官の説明に応じる必要があります。所要時間は30分〜1時間程度ですが、平日に行われることが多く、仕事などを調整する手間が発生します。しかし、適正な賠償を得るための必要なコストと考えるべきです。

2. 加害者の態度が硬化する可能性がある

人身事故になると、加害者には以下の3つの責任が発生します。

  • 民事責任: 損害賠償(これは物損でも同じ)
  • 刑事責任: 過失運転致傷罪など(罰金や懲役)
  • 行政責任: 免許の違反点数加算(免停など)

特に免許の点数を気にする加害者は、人身事故への切り替えを嫌がります。しかし、これは加害者が負うべき責任であり、被害者が遠慮する必要はありません。ただし、相手の態度が硬化し、連絡が取りづらくなる等のトラブルが予想されるため、弁護士を介入させる等の対策が有効です。

解説:もし警察で切り替えを断られたら?「入手不能理由書」

事故から日数が経過しすぎている(例えば2週間以上)場合や、怪我の程度が極めて軽微(全治2〜3日等)の場合、警察が「事故との因果関係が不明確」として、人身への切り替え届を受理してくれないことがあります。

そのような場合でも、諦める必要はありません。保険会社における「人身事故証明書入手不能理由書」を活用します。

「人身事故証明書入手不能理由書」とは

「警察では物損事故として処理されているが、実際には怪我をしており、人身事故として扱ってほしい」という理由を記載し、加害者・被害者双方が署名・捺印して保険会社に提出する書類です。

これと「医師の診断書」を保険会社に提出すれば、保険会社の補償実務上は「人身事故」として扱われます(いわゆる「人身扱い」)。

  • 効果: 治療費や慰謝料の支払いが受けられるようになります。
  • 限界: あくまで保険会社内部の扱いに過ぎず、警察の記録は「物損」のままです。したがって、実況見分調書は作成されません。過失割合に争いがない場合はこの方法でも大きな問題はありませんが、争いがある場合は不利になるリスクが残ります。

弁護士に相談するメリット

物損から人身への切り替えは、簡単な手続きに見えて、実はタイミングや相手方との関係性において難しい判断を迫られることがあります。

1. 警察が切り替えを渋った場合の対応

警察窓口で「今さら切り替えは難しい」と言われても、弁護士からのアドバイスに基づき、法的な根拠や必要性を説明することで受理されるケースがあります。また、どうしても受理されない場合に、実況見分調書がない中でどのように証拠を保全すべきか(ドライブレコーダー解析や車両鑑定など)の対策を講じることができます。

2. 加害者とのトラブル回避

加害者が「人身にしないでくれ」としつこく迫ってくる場合、弁護士が窓口となることで、被害者は直接の矢面に立つことなく、粛々と手続きを進めることができます。「弁護士に任せているので」の一言で断ることが可能になります。

3. 慰謝料・過失割合の適正化

人身事故として処理された後も、保険会社は低い基準(自賠責基準や任意保険基準)での示談金を提示してくるのが通常です。弁護士は、最も高い基準である「弁護士基準(裁判基準)」を用いて交渉し、慰謝料の増額を目指します。また、実況見分調書を取り寄せ(弁護士であれば刑事記録の謄写が可能)、過失割合が妥当かどうかをチェックします。

まとめ

交通事故で身体に衝撃を受けた場合、直後は痛みがなくても後から症状が出ることが多々あります。

「大したことないから」「相手が可哀想だから」と物損事故のままにしておくことは、将来の自分に対する補償を放棄するのと同じことです。

重要なポイントの振り返り

  1. 痛みが出たらすぐに病院へ: 事故から1週間以内を目安に受診し、診断書を取得する。
  2. 速やかに警察へ連絡: 診断書を持って警察署へ行き、人身事故への切り替え手続きを行う。
  3. 実況見分への協力: 正しい過失割合を導くために、現場検証には誠実に対応する。
  4. 間に合わなければ「入手不能理由書」: 警察で断られた場合は、保険会社の手続きで補償を確保する。

手続きに不安がある場合や、相手方とのやり取りにストレスを感じる場合は、お早めに弁護士にご相談ください。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、被害者の方が正当な権利を行使し、十分な治療と補償を受けられるようサポートいたします。

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